第5話 「怪盗紳士」と「自殺屋」 ~協力関係締結~
「シスター」に連れられるがまま歩き、夜が更ける頃ようやく着いたその場所は森の奥にひっそりと佇んでいるせいか、今は真夏だというのにやけに空気が冷えており、じっとりと重苦しい薄気味悪さを纏った真っ黒な洋館だった。「…ここが、君たちの言う「隠れ家」なのか?」
「ええ。元々ここは「自殺屋」の仕事対象が住んでいた洋館で…ジュリア、私…それに、ノーマンの三人でここに住んでいるの。」
入りましょ、と「シスター」は彼の手を引き、洋館の扉を開く。洋館の中にいたのは
あの例の「自殺屋」と見知らぬ男だった。「自殺屋」の方は気付いたらしく、すぐに怪盗紳士の方を見つめて穏やかな笑みを浮かべるが、もう一人の男の方は全く興味の無い様子で読書を続けている。
「…やあ、スカーレットさん。…ありがとう、「シスター」。連れてきてくれたんだね。」
「ええ、だってジュリアの頼みだもの。
私の神が貴方に協力しろと仰っている限りは協力させてもらうわ。」
「自殺屋」に向けて「シスター」がにこやかに微笑んだ時、それまで黙っていたもう一人の男が嫌味な調子で口を開く。
「…あ~…やだやだ。「シスター」殿は相変わらずガチガチに固まった思考しかしないね。…ああ、で?君、誰。」
ようやくその男も怪盗紳士に気付いたらしく、声を掛けてくる。その傲慢な態度に若干嫌な感情を抱きつつも怪盗紳士は一応自己紹介をしてみせた。
「…私は「怪盗紳士」スカーレットだ。」
「僕は、ジュリア。よろしくね、スカーレット。」
「自殺屋」は自己紹介を促すかのように男に目線を向ける。男は嫌そうな様子を見せながらも渋々口を開いた。
「……ええ……ま、いいけど…ノーマン。
ノーマン・アザロフ。「埋葬屋」。」
「…埋葬屋?」
「何、君知らないの?…僕の異能なんだよ。
「
流石の彼も嫌悪感を隠しきれずに眉をひそめてしまう。と、それに勘づいたのか「シスター」が困ったような微笑みを浮かべて彼の肩を優しく叩いた。
「…ノーマン、それくらいで。…スカーレットさん。僕、君にお話があるんだよ。」
ジュリアがノーマンを制止し、底の見えない瞳で彼を見つめながら穏やかに微笑む。怪盗紳士は警戒しつつも不適な態度は崩さず「…ほう、私に話?このスカーレットに話を持ちかけるとは…良い度胸だ、聞いてやる。」あくまでも威厳を保ちつつそう答える。
「ふふ、ありがとう。それじゃあ早速だけど…僕たちの「友達」になってくれないかな。僕の深淵が君を気に入ったみたいなんだ。」
「…友達…?」
彼は思わず聞き返した。
「うん、友達。勿論、ただの友達じゃないよ。君が困ったときは助けてあげる。」
「…つまり。言葉は悪いが助けてやったから恩を返せ、と言いたいのだな?」
ジュリアが少し黙っていると、黙っていた
ノーマンが口を開く。
「そういうこと。だよね、ジュリア。こっちはヘマして捕まった君をわざわざ「シスター」殿の手を借りてまで助けてあげたんだ。恩を返すのは当然でしょ?」
「…まあ、その解釈で構わないよ。で、また聞くんだけど…友達になってくれる?」
「自殺屋」や「シスター」…そして「埋葬屋」。裏社会で生きる、その上物騒な通称で呼ばれている人間たちの前で反抗するのは得策ではない。それに、彼らに助けてもらった恩があるのも確かだ。彼の答えは決まっていた。
「ああ。だがこの怪盗紳士を友人にするからには…それ相応に覚悟してもらおう。」
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