第4話 「怪盗紳士」と「自殺屋」 ~救出~

捕獲され、特別房に放り込まれた怪盗紳士はほぼ違法にも等しい尋問を受けていた。捜査員数人が「待ってろ、お前の化けの皮を剥がしてやる!」と威勢良く吐き捨てて取調室を飛び出し、扉が耳障りな音を立てて閉まると一人きりになった彼は椅子にもたれ掛かり、少し思考を巡らせる。三日間眠れず、とうとう朦朧もうろうとしてきた脳の片隅にはまだあの「自殺屋」の静かで穏やかな笑顔がこびりついている。あの男の正体について考えようと瞳を閉じた瞬間、扉が乱暴に開けられて取調官が入ってくる。彼らを挑発するかのように億劫おっくうそうなため息を吐きながら、わざと閉じていた瞳をゆっくりと開く彼に取調官は見事に釣られ、机を拳で叩きながら怒りをあらわにする。

「そうやって余裕ぶってられるのも今のうちだ…お前の正体は全部分かってるんだよ。

ロミア・ノックス。これがお前の本名だろ?」

(…嗚呼、本当に…愚かだ。)

得意気な様子の取調官を見つめるたび、彼の心を驚きよりも哀れみが侵食していく。

「だが彼女は5年前に不慮の交通事故で死亡している…君たちは、この私が死人だとでも言いたいのかね?」

黙り込んでいた彼がゆっくりと口を開くと、取調官の表情が明らかに変化する。先程までの得意気な様子ではなく、焦りを帯びた…どこか、怯えにも似た表情へと。そう、この「怪盗紳士」の正体であるロミア・ノックスは既に「死亡」している。…戸籍上は。

「そ、それは…お前が工作をしただけで…」

「工作?ほう、この私がその少女の死因に どんな工作をしたと言うのかね?まさか私がその少女を殺して名前を借りているとでも

言うつもりか?」

取調官が言葉に詰まった一瞬、取調室の外で銃声が轟いた。それも一発ではなく、断続的に何発も。それを好機と見たのか、彼から逃げるように外の様子を見に行った取調官を含む数人の絶叫が聞こえたかと思うと取調室の扉が静かに開き、腰の部分が破れたシスター服を身にまとった柔らかい雰囲気の女性が姿を見せる。彼女の左手には装飾をごてごてと施された純銀製のコルト・パイソンが握られており、その銃口からはまだ白煙が立ち上っている。彼女は少し取調室を見回し、彼と目が合うと表情をぱっと明るくしながら彼の側へと駆け寄り、空いている右手で彼の左手を握る。

「まあ、貴方が噂の「怪盗紳士」スカーレットさんね!ジュリアから面白い子だって聞いて楽しみにしてたの。」

「…ジュリア?私の知り合いにそんな名前の人物はいないが。」

「あら?ジュリア、名乗ってないのね。

…ああ、そうだわ!「自殺屋」の方でなら

聞き覚えがあるかしら?」

「自殺屋」…彼女の口から飛び出した言葉に彼は驚愕する。その名を知っているのは、

自分だけだと思っていた。

「…ああ、そいつなら知っている。」

「ふふ、良かった。私はジュリア…いえ、「自殺屋」から頼まれて貴方を助けに来たのよ。「警察に捕縛されている「怪盗紳士」

スカーレットを助けてほしい」って。あ、ごめんなさいね…名乗ってなかったわ。私は

キャリー・ローゼス…と言うの。けれど、この名前はあまり好きじゃないから…よければ

「シスター」と呼んでちょうだい?」

少し思考したのち、彼は「シスター」を見つめ返して微笑む。

「…ああ、「シスター」。助けてくれるならありがたい。しばらく眠っていなくてね、

今にも寝てしまいそうなんだ。」

「それじゃあ、ここを出ましょうか。…その前に…この警察署には「神々からの祝福」を授けてあげないといけないわね。

ハレルヤ祝福あれ!』」

「シスター」が腕を大きく開き、笑顔でそう言葉を漏らした瞬間、建物にヒビが走る。

「…「シスター」、それが君の異能か?」

「ええ。私の異能は『ハレルヤ祝福あれ!』人、ものを問わずに「神々からの祝福」を与えられる力なの。少し急ぎましょ?聖なる祝福の力に耐えられずに、不浄なるこの建物が崩壊を始めてるわ。」

「シスター」は微笑みを浮かべながら彼の手を引き、警察署を飛び出す。彼が手を引かれながら警察署から出た瞬間、建物が完全に崩壊し、コンクリートの欠片を始めとする建物の残骸が周辺に飛び散った。

「これで不浄なる物がまた一つ浄化された…天にいらっしゃる神々もお喜びになるわ!」

「シスター」は嬉しそうに天を仰いだ後、自分とジュリア、そしてもう一人の隠れ家に連れていくと言いながら彼をどこかへと連れ去っていった。

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