帰り道の途中

「僕がエリを守ってあげる!」


 そう言って胸を張って、快活に笑っていた男の子は今、私の隣を歩いていた。幼馴染で、近いからと言う理由で高校も一緒になってしまった。彼も私も互いにその高校に行くとは伝えていない状態だったのにも関わらず一緒の高校にいくことになったのだ。中学卒業間近になってからそう言われて、彼と別れてしまうと思って悲しくなっていた私の気持ちを返してほしい。


「エリ。どうしたの?」


「いえ。貴方が一緒の高校だって早く言ってくれれば、悲しい思いをしなくても済んだのにって考えていただけです」


「それはごめんって。そんなに悲しい顔すると思わなくてさ。ね、ごめんって」


 この話は何度もしてしまっているのに、彼は私を怒ったり、不機嫌になったりしない。何度言っても、彼はそうやって謝ってくれる。私は謝ってほしいわけではなく、構ってほしくて言ってしまっている自覚はあった。こういうことを言わなくても、彼は私に構ってくれるのはわかっているが、どこか不安。


「エリ、大丈夫? ほんとに何かあった? 僕にも教えて」


 正面に立ち、彼は私の目を真っ直ぐ見てそう言ってくれた。彼の瞳はいつも真っ直ぐで、優しい言葉も柔らかい音色で伝えてくれる。たまには不器用な所もあるけど、そこがまた彼の魅力だ。


「いえ。なんでもないですよ」


「言えないことなの?」


 顔に出ているのか、考えを読んでいるのか、彼は私の心を見つめてくる。私の言葉ではなく、心と会話しているのではないかと思うときもあるほどだ。そこまで見られていると、私の今この心にある大切なものまで見透かされているようで落ち着かない。


「大丈夫ですよ。悪いことではないのですから」


「そっか」


 彼はその言葉に満足したのか、再び私の隣に移動し歩き出した。私もその横に続くと、彼が歩く速さを合わせてくれた。それが私の不安を和らげた。


「いつもありがとうございます」


 その喜びが思わず、感謝となって口から出た。小声だったが、彼には聞こえていたかもしれない。そう思うと、顔が暑くなってくる。


「どういたしまして。なんでお礼言われたのかわかんないけどね」


 あははっと笑いながら、私の顔を見つめている。赤くなってしまった顔を見つめられているということを認識すると、さらに顔が暑くなったのを自覚する。


「……可愛いね」


 それは彼の呟きでおそらく、私には聞かせる気はなかったのだろう。でも、その言葉は私の耳まで届いてしまった。顔がさらに暑くなる。もはや、この顔の暑さに上限はないのではないかと思う。


 彼を見れば、その横顔は赤みがかっていた。

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