臨機応変とか苦手
勉強ができると褒められることはよくある。しかし、僕にとっては勉強ができると褒められるだけならそこまで難しいことではないと思う。頭の回転が早いわけでもない僕がそう褒められるのは、家にいても特にすることがなく暇つぶしとして教科書を読んだり、ノートを見返したりしているだけだからだ。その行為に時間をかけていれば必然と学校の勉強はできるようになる。だから、僕は人付き合いも苦手だし、臨機応変に対応するのも苦手だ。
そして、その二つが同時に目の前に現れた。こんなのどうしたらいいのか。
「うぅ、うぅう」
目の前には段ボールに頭を突っ込んで、唸っている女子がいた。足をバタバタしていて、スカートが少し捲れてしまっているのが目に毒だ。
「おこいだえかいうお」
動きを止めて、こもった声が聞こえてくる。多分、そこに誰かいるの、だと思う。唖然としていて、見つめているだけだった自分の意識が戻ってくる。
「あ、だ、大丈夫?」
見た目からして大丈夫ではなさそうな相手に訊くことではなかった。しかし、とっさにはそれしか言えなかった。口は動くようになったが、未だ頭はパニックで彼女を助けるにはどうしたらいいかわからない。
「だいじょううじゃあい」
大丈夫じゃない、だろうか。こうして思考だけは冷静なようで、それは冷静さを保とうとしているだけだと理解する。それがわかったせいなのか、段ボールを外すだけで解決することを理解した。しっかり冷静になれば、体もそれに従って動く。
段ボールを外すと、明るい茶色の髪が地面に広がる。彼女は体を起こして、こちらを見た。僕を真っ直ぐ見つめる瞳はこげ茶色の瞳でたれ目。見た目からは柔らかい印象を受ける。無意識に彼女に手を差し出してしまったが、彼女は躊躇いなく僕の手を掴んで立ち上がった。
「ありがとうね」
ゆったりとした話し方で、長閑な笑顔をしていた。その笑顔を見たせいで、視線を合わせられなくなる。その外した視線の先は彼女の腕辺りで、そこに埃がついていた。また、無意識にそこに手を伸ばして払う。
「あっ」
彼女は驚いたようすで僕を見ていたが、その意味を理解したのか、またふわっとした笑みを浮かべる。
「ごめんね。ありがとう」
「い、いや、気にしないで。と言うか、いきなり触るのは駄目だよね。ごめん」
慌てて彼女の腕から手を離そうとしたが、その手の上から彼女の手が重ねられる。どきっとして、彼女の顔を見る。その距離がかなり近くて、急に離れることも出来なくて、体も思考も固まった。
「だいじょうぶ。なんも嫌じゃないよ」
――可愛い……。
知らないもの。知らないこと。この心にあるのが何なのかわからない。ただ、既に思考は動かない。思うことはただ、彼女の笑顔を見ていたいということだけだった。
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