妹のための料理
「おいしい」
目の前で、俺の作った料理を幸せそうな表情で食べている少女がいた。その少女は僕の妹だ。日本人ではあるのだが、白い髪と赤い瞳を持っている。そのせいか、小学生の頃はいじめに遭い、中学生ではいじめられなくなったが、気味悪がられた。高校になった今でも、友達はいないようだ。
それでも、彼女は健気に学校を休むことなく通っている。彼女曰く、引きこもってしまったら、本当に誰とも繋がれない、らしい。自分から誰かに話しかけられなくとも、もしかしたら誰かに話しかけられるかもしれない。そんな希望を抱いているのかもしれない。可能性が零にならないのは事実だ。そんな妹はこういう時しか笑ってくれない。
「おいしいよ」
今日も様子は変わらず、俺の作った料理を笑顔で食べてくれる。学校のことを訊こうと思っても、口が動かない。幸せそうにご飯を食べる妹にそう訊ける勇気がないのだ。学校で少しでも助けて上げられれば良かったが、既にその高校を卒業してしまっている俺にはどうすることもできない。この家で両親の代わりにおいしい料理を作ることしかできない。
「おいしいね」
今日は少しだけ様子が違った。帰ってきたときからそうだが、どこか楽しそうと言うだった。いつも学校から帰ってくると、少し暗い表情で小さな声でただいまと言うだけだったが、今日はいつもより少しだけ言葉が弾んでいた気がするのだ。その変化を認め、俺はいつもは訊けないことを訊く。
「学校でいいこと、あった?」
「ちょっと、話しかけてもらった。いつもみたいな、ノート出して、とかじゃなくて、ちゃんと、一緒に、お話した」
少し照れたような様子だが、嬉しそうだ。そんな笑顔を久しぶりに見れたことが嬉しい。思わず、俺もいつも以上に口角が上がるのを自覚する。
「あの、にいさん。……」
俺を呼んだあと、妹は俯いたまま、次の言葉を探している。俺は特に急かすことはなく、妹の言葉を笑顔で待つ。
「あの、ね。その、男の子に、好きって、言われちゃった……」
言った後、妹の顔が朱色一色に染まる。顔だけじゃなく、耳も赤い。
いや、そんな観察している場合ではない。この妹の可愛さを理解した男子がいたと言うのが驚きだ。妹には悪いが、騙されている可能性を考えた方がいいかもしれない。高校生と言うのはそういう精神を攻撃するようなことをしても、冗談の一言で済ませることがあるのだ。そして、そういうやつは決まって、こういう。冗談もわからないのか、と。そう考えたものの、とりあえずは、妹がどうするのか聞くしかない。
「あのね、とりあえず、お友達からって返事したの」
「そっか。どんな人なの」
彼女曰く、相手は真面目そうな眼鏡をかけていて、いつもは読書ばかりしているような人だという。その情報だと、騙されているという可能性は低いかもしれない。妹と恋人関係になる前に一度、会わなければいけない。
邪魔はしないように、とは思うが、それは無理だろう。どこかのだれかに、可愛い妹を渡すわけにはいかないのだ。
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