優等生なだけ

「あー、当たんなかったぁ」


 布団にくるまり、ベットの上でスマホでゲームをする。部屋の中では、お気に入りのアニソンが流れていた。スマホ画面にはゲームのガチャ画面の結果が表示されており、欲しいキャラは当たらなかった。


――どうせ、そんなもの。


 高校までは生徒会長をやったり、部活でいい成績を残したりしていて、優秀と言われた私だが、今ではニート。大学受験は全て落ちて、バイトをしながら次の受験に向けて、勉強しようと考えていた。しかし、勉強しかできなかった私は接客ではミスを連発し、商品も素早く並べられない。優秀だと自負していた私は人付き合いも受け身であったため、仕事での人間関係もうまく築けない。そんな頭でっかちを誰が雇い続けるのか。全ての仕事をクビと言われる前に辞めた。どの職場も居心地が悪かった。勉強の意義もわからなくなり、仕事も無理で、今はこうして部屋に引きこもる毎日。母はバイトを探してきてくれるし、父も励ましながら勉強することを進めてくれる。でも、駄目だ。自信は砕け散り、社会に貢献するのは優等生なだけの私じゃない。


 過去の栄光を思い出す。高校生の時は近所の子供とも遊んであげられるほど、余裕があった。近所の公園に毎日来て、ブランコを漕いでいた男の子は今は何をしているのだろうか。小学生くらいに見えたから、今はもう中学生か高校生くらいだろう。きっと、子供のころのことなど忘れて、部活に勤しんでいるだろうか。好きで一人で遊んでいるように見えたときもあるので、もしかしたらインドアの趣味かもしれない。それでも、きっと、友達と笑いあい、遊んでいるに違いない。


――過去の栄光を引きずり、今日も無為な一日を過ごす。


「マリ。ちょっと、お母さん手が離せないの。ちょっと買い物行ってきてくれない?」


 ニートの私だが、手伝いくらいはする。家にいるだけで、何もしないわけではない。それに、たまには外に出て、外の空気を吸いたいとも思う。


「わかった。何かってくればいいの?」


 母に一枚のメモと二千円を渡された。メモには買うものがリストになっていた。スウェットのまま外に出るのはさすがに恥ずかしい。バイト時代に買った私服に着替えた。鏡を見ると、服以外はとても外に出ていけるようなものではなかった。ボサボサの髪を櫛で整えた。少しだけ化粧をして、気を引き締める。少し外に出るだけなのに、ここまでの準備が必要な心を持ってしまっていた。外に出るぞ、そういう心構えが必要なのだ。


「いってきます」

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