思い出の恋心
マリねぇ。
そう呼んでいた近所のお姉さんがいた。年上で、一緒にいるとほわほわするような感覚があって、よく彼女に遊んでもらっていた。近所の公園で遊んでいると、必ず彼女が通りかかって、一緒に遊んでくれたのだが、その回数は徐々に減っていった。公園には僕以外にも遊んでいる子がいて、その子たちと遊んでいる間に、マリねぇが公園に来なくても、楽しく遊んでいた。そして、いつの間にか、彼女がその公園に来ることはなくなっていた。
幼いころに遊んでもらった人のことを思い出した。いや、唐突と言うわけでもない。度々、特にきっかけもなく、彼女のことを思い出すことはあった。その度に懐かしさと寂しさが生まれた。中学生のころには、三か月ほどその公園に通って一日そこで本を読むふりをして、道行く人を見ていたが、それっぽい人は一人も見つけられなかった。そして、今日、今までなぜ思いつかなったのかと思うほど、簡単なことに気が付いた。公園にはいつも一人で行っていたわけではない。母親も一緒に行っていた時の方が多かったはずだ。だから、母親に訊いてみればよかったのだ。
母にそのことを訊くと、なんでもないことかのようにぺらぺらと話してくれた。そもそも隠すようなことでもなかったのだ。
母の話はそんなに長くなく、それどころか思い出の彼女の話は前半だけで、後半は俺の幼いころの話ばかりであった。
思い出の彼女は二つ隣の家に住んでいるらしい。それに気づかないとは俺はアホなのかもしれない。しかし、灯台下暗しともいうし、遠くにいるという思い込みのせいで近くにいるとは思わなかった。母の話を聞いた後だと、近くに住んでいる可能性の方が高いに決まっていることに気が付いた。俺は特に思い込みが激しいところがあるので、それのせいもある。
何はともあれ、思い出の彼女の住んでいる場所もわかった。ただ、会いに行く勇気などはない。思い出せただけもいいのだ。
幼い恋心はこの心の中で思い出にしてしまえ。
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