いつも通りの
夕方、ふわふわのポニーテールの女の子と一緒に歩いていた。彼女は中学の時に友達になって、高校も偶然一緒だったらしい。おかげで今でも仲が良く、休日でもよく一緒に遊びに行く。今日も遊びに行った帰りだ。
隣を歩く彼女は少し疲れた様子ではあるものの、まだ楽しそうだった。彼女は誰かと一緒にいるときは基本的にこういう表情であることが多い。笑顔が多いのはいいことだ。
「お前、いつも笑顔だよな」
いつも通り、茶化すような言葉を発する。
「そりゃ、楽しかったからね!」
隣を歩く彼女はその言葉に俺の顔を見て、白い歯を見せ、快活な笑顔でそういう。
「ま、そうか。でも、今日は特に楽しそうだった気がするけど」
「だ、だって、それは……。もう、いいでしょ」
照れたような様子で、彼女は手の甲で頬を隠した。
あまり茶化して、楽しい日を嫌な気持ちにさせて終わらせることもない。こういう日も楽しいままで帰ってほしい。
「そうだな。お前が笑顔だったから、俺も楽しかったよ」
「そっ、それは、どうも……」
俺から視線を逸らして、正面を向いた。彼女の頬は夕焼けに負けないくらい赤に染まっていた。
「おはよう」
「おう」
家の方向は同じでも一緒に登校しているわけではない。彼女は部活の朝練があり、俺には朝練がない。その差で登校は別々だ。
彼女の挨拶はいつものように元気で、快活な笑顔だった。それを見ることが出来たので、今日も一日頑張れそうだ。
――なんてな。
放課後なると、二人とも部活に行く。部室は同じ方向なので、一緒に移動した。その間も彼女は笑顔で話をしてくれた。
「で、今日も仲良く部室に来たみたいだけど」
「いつもそうだろ。気にすんな」
「羨ましい……。てか、付き合ってんの?」
部室に入ると、そこにいた他の部員二人が、いつも同じことを言う。いい加減、うんざりしているが、答えないとうるさいので答える。
「付き合っちゃいないよ。お前らには渡さないけどな」
適当なことを言って、いつものようにごまかす。実際、俺はこいつらだけじゃなく、他の奴にも渡すつもりはない。いつもそばにいてくれるのに、好きにならないわけがない。ただ、今の関係を崩したくないだけだ。
「いつまでも、待っててくれると思うなよ」
「うるせぇ」
茶化すようなやり取りだが、俺のその言葉でその会話は終了する。そこから、部活動を開始した。
「そろそろ終わりにするか」
時計もいい時間を示していたので、今日の部活は終わることにした。皆は支度を終えるとさっさと帰っていく。二人は最初からあまりこの場所に長居することはなかった。俺もそろそろ出ていくことにした。
玄関まで移動して、彼女が来るのを待つ。待ち合わせはいつもこの場所だ。
「待った?」
廊下を小走りできたのは俺の待ち人だった。
「いや、そんなに。帰ろう」
ぶっきらぼうに言うが、彼女と歩調を合わせて、靴箱に向かう。靴を履き替えて、彼女がいる方へと移動した。どうやら、もたついているみたいだが、昔からのことなので、急かすこともない。なぜだが、靴を履くのが苦手らしい。
「ごめんね。待たせて」
「そんなに待ってねぇよ」
先に歩き出すが、一歩を出したところで、彼女の方を向く。彼女がそこで急いだもんだから、足がもつれた。転びそうになるのを、軽く受け止める。
「大丈夫か。悪い、急かしたか」
「……」
彼女は黙ったまま、何も言わない。自身の状況を理解したのか、顔が赤くなっていく。そして、運が悪いことに彼女の友達に見つかった。
「おお、こんなところでいちゃついて」
「ついに、告った?」
「そ、そういうんじゃないの! 転びそうになったのを助けてもらっただけで」
慌てて俺から距離を取るも、焦った彼女の足取りは危うく、案の定、今度は後ろに転びそうになる。もちろん、それも俺が支えた。
「あんま、焦んな」
「う、うん。ごめん」
彼女は顔を俯かせて、照れていた。その姿を目に焼き付けるようにじっと見つめる。その様子を、そこにいた二人が見ているのはもちろん気が付いている。
「てか、絶対好きじゃん」
「照れてるよ、あれ」
小声で話しているつもりかもしれないが、俺にはばっちり聞こえている。聞こえてないふりをして気にしない。彼女にはその言葉が聞こえたのか、わからないが俺の手から抜け出して、二人を見た。今の光景を見られたことを認識したのか、さらに顔を赤くして、しゃがみながら両手で顔を覆う。
「うぅ、恥ずかし……」
「ははっ」
その姿に思わず、笑いがこみ上げる。
「可愛いよな、こういうところ」
そこにいた二人にそう言って、笑いかける。二人は驚いた顔をして、頭を激しく上下させた。
「じゃ、じゃーね!」
「また明日」
二人はダッシュで玄関から消えた。
――俺、何かしたか?
そんなことを思ったが、それより目の前の彼女を連れて帰らなければならない。顔を覆う彼女の手の片方に触れた。
「さ、帰ろう」
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