あっ
放課後、僕は大好きな本がたくさんある図書室へと向かっていた。窓からは強い日差しが差し込んでいて、それが廊下に反射して眩しい。廊下の反対側からは五冊ほどのノートを持った女子が歩いてきていた。
「あっ」
目の前で女子が転びそうになって、僕の手に寄り掛かった。彼女が持っていたノートが二、三冊落ちた。目の前で落とされては無視するわけにもいかず、落ちたノートを拾う。
「あっ」
再びの声。次は何かと思ったが、拾ったノートを見るとその声の意味が分かった。ノートの表紙には「恋心」と書かれていた。このタイトルは中身が気になるが、少なくとも、授業で使っているノートではない。ぱっと思いついたのはポエムが書かれているってところだろうか。
「大丈夫? はい、これ」
特に中身も見ていないので、そのまま彼女に手渡す。彼女は少し照れているようで、僕に視線を合わせようとしなかった。そのせいで、ノートの中身の予想がついてしまう。大体僕の予想で間違ってないはずだ。
「あ、ありがとう、ございます」
それだけ言うと彼女はそそくさとこの場を去った。僕も目的の図書館に向かった。
翌日、放課後。図書館通いは僕の習慣なので、昨日と同じルートで図書館に向かう。そして、昨日会った女子が目の前からくるのが見えた。僕に気が付くと、少し俯いた。
「こ、こんにちは」
すれ違いざまに挨拶をされたが、驚きの方が勝って挨拶を返せなかった。振り返った時には既に、彼女の背は遠くにあった。そんなに急いでいるなら、挨拶しなくてもいいのに。
さらに、翌日。またまた同じ廊下で、目の前から昨日挨拶された女子が目の前から歩いてくる。今日は挨拶されても、返せるように準備できている。いや、こっちからの方がいいか。
「こんにちは」
すれ違う前に、彼女に挨拶すると、彼女はいったん足を止めて、驚いたような目で僕を見つめた。自分のしている行為に気が付くと、すぐに視線を下に向け、会釈だけして、走り去った。
――まったく、彼女を理解できない。
そして、その行為が僕の興味を引いたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます