恩は返すもの

 私はよく義理堅いとか、律儀とか言われる性格らしい。そう言われるのも仕方がないのかもしれない。感謝することをしてもらったらそれを返しなさい、と言われて育ったのだ。それを他人にまで求めようとは思わないが、自分だけでもそれを守ろうと心掛けてもいる。


 そして、昨日、いつものように近道を通って家に帰ろうと思って人気のない道に入ると、そこにいた不良たちに絡まれた。学園ドラマで見たような展開だと他人事のように思っていたが、さすがにナイフを向けられたときは、体が動かなくなるほどの恐怖を感じた。しかし、助けられるときもドラマのような展開だった。最初見たときは、そこまでの安堵はなかったが、彼が動き出した瞬間の圧倒的な強さが格好良かった。最後にお礼を求めずに去っていたのは少し気障きざっぽかったが、それも中々様になっていた。


 その次の日になって、彼にお礼をするために、彼を探そうと思った。昨日、助けられたとき、彼は私と同じ高校の制服だった。つまり、学校の中を探していればいつか見つかるはずだ。しかし、手当たり次第に探すのは効率が悪いし、お礼をするのは早い方がいいに決まっているのだ。だから、とりあえず、友達に訊くことにした。


「昨日、不良に絡まれたんだけど、それを助けてくれた人がいたの。こう、素手で不良たちを倒してくれたんだけど、お礼もさせてもらえなかったのよ。この学校の人みたいなんだけど、何か知らない?」


「えぇー。何、惚れちゃった?」


「いや、多分、いつもの律儀じゃないの?」


「あ、そっか。んー、でも、強い人かぁ」


 いつも一緒にいる二人に訊いてみたものの、はっきりした返事はなかった。


「なぁ、その人、ブドウカじゃね?」


 私たち三人の近くに座っていた活発そうな男子が、そう教えてくれた。あれだけ強ければそんな呼ばれ方をしていても不思議ではないのかもしれない。男子の間では、そこそこ有名人らしい。彼が二年の空手部に所属していることも教えてもらった。


 昼休み、早速行動開始だ。二年は一学年上なので、その教室が並ぶ場所に来るのは少しだけ緊張する。一応、友達もついてきてくれているが、二人も少し緊張した様子であった。そんな様子だったからが、通りがかった女子の先輩が話しかけてくれた。


「どうしたの?」


「あの、ブドウカってあだ名の人を探してるんです。昨日、助けてもらったので、お礼を、と思いまして」


「ブドウカか。あんまりかかわらない方がいいと思うよ。本人もお礼言われるの嫌いみたいだし」


「それでも、どのクラスかだけでも」


「わかったわ。教室までね」


 そういうと、先輩はブドウカさんのいるクラスまで連れてきてくれた。教室の前まで来ると、その教室にいた人にブドウカのことを訊いてくれているようで、何故かその言葉が伝言として教室内の色々な人を経由して、ようやくブドウカに届いたようだった。


 教室の中では、あまり存在感はなかったが、彼が立ち上がると、何人かが彼を見る。しかし、その視線はすぐに逸らされる。強いゆえに警戒されているのだろうか。


「俺に何か用で、って昨日の人」


「昨日はありがとうございました。その、やっぱりちゃんとお礼したくて、買ったものですけど、これどうぞ」


 それは、コンビニで売っているような洋菓子だ。私が好きなチョコケーキと、大福が袋に入っている。


「あ、わざわざありがとう。律儀、だね」


 彼の笑顔がどこか引きつっているように見えたが、きっと気のせいだろう。


「それじゃ、次からは襲われるような道に入らないようにね」


 それだけ言うと彼は席に戻って行った。




 私はお礼を渡し終えて、満足した。これが、自己満足であることはわかっているが、どうしてもやらなくてはいけない気がしていた。と言うより、命を救われて何もしない方がおかしい。彼はそういうことを考えていないようだったが。


「なんか、ワイルドーとか、イケメンーとか、想像してたけど普通に体格の良い人ってだけだったね」


「でも、なんかちょっとミステリアスって感じがしたなぁ」


「昨日はもうちょっと格好良く見えたんですけどね」

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