昔のこと

「これ、今日の弁当ね」


「毎日、作らなくてもいいよ。大変じゃない?」


「別に。好きでやってることだから」


 私に弁当が入っているだろう包みを寄越して、彼は去っていった。


 高校に入って、まさか幼稚園の時に仲良くしていた人と会うとは思っていなかった。何より驚いたのは、子供頃見た丸い顔つきが主っとした輪郭になって、顔が男らしく整っていたことだ。自分を面食いだとは思いたくないが、格好良い顔で幼稚園以来の再開といえば、何か始まる予感がしても仕方がないかとだと思う。恋愛ものでは、定番の設定。心が浮わつくのも許してほしい。


 誰に言い訳しているのか、靴箱の前でひとり、息を吐く。渡された弁当が視界に入った。包みはオレンジ色のチェックで、子供の頃から好きな色でもあった。昔のことを、しかも私の好きな色を覚えていていてくれたのかと思うとちょっと嬉しい。


……顔がにやけてないか、心配。

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