わんこ男子

「会長に良いように使われて可愛そう」


 会長の隣を歩く僕を見て、色々な人がそんなことを言う。別に良いように使われているわけじゃない。この人が好きだからだ。いくら仕事ができて、完璧に見えても、疲れない訳がない。一人でこなすには仕事の量が明らかに多い。好きな人を手伝うって、そんな不純な理由だけど、手伝っていると改めてその仕事の多いこと。これを一人でこなしていた期間があると思うと、より彼女のことが好きになる。


「どうかしたの?」


「いえ、なんでもないです」


「そう」


 会話と言えるかわからない程の返答。特に用事がない時はこういう会話がほとんどだ。それに教室などで作業しているときは、他愛ない話でも彼女はちゃんと会話をしてくれる。黙って二人で歩いていくとすぐに生徒会室に着いた。僕が持っていた書類を机に置いて、二人で作業を開始する。会長は自分の机があるにも関わらず、僕と同じテーブルで、それも僕の正面に座っている。それについて質問したことがあるが、彼女曰く、仕事の効率が良くなるから、らしい。確かに言われてみれば、二人しかいないのだから、近くにいた方が、質問もしやすいし、書類の確認もしやすい。さすが、会長。


「今日は、私のこと、よく見るわね。何か言いたいことでもあるの」


 会長のことを考えていると、会長の方を見ていたらしい。指摘されてようやく視線を少し下にずらす。


「あ、いえ、会長のことを考えてたんです」


「あ、え? そ、そう。別に貴方が何を考えていようと貴方の勝手です」


 そういうと、書類を一枚手に取って仕事を始めてしまった。会長はこういうことを言うとすぐに、僕から視線を外し、話を断ったり、話題を変えたりする。どうやら、照れているらしい。最初にその様子を見たときは、頭を殴られたような、心臓を撃ち抜かれたような衝撃を受けた。外から見ているときは、凛としていて、一人でなんでもできる完璧な人だと思っていたが、そういうかわいい面もこの人にはあったのだ。それから、さらに彼女のことを好きになった。




「……今日は、もう終わりにしましょう」


 仕事を終わらせるには少し早い時間だ。何か予定があるのかもしれない。


「ねぇ、この後、寄りたいところがあるの。一緒に来てくれる?」


 僕にとってそれを断る理由はない。それどころか喜んで、一緒に行こう。


「はい! どこへでもついていきますよ」


「あ、ありがと。さ、行きましょ」


 頬を少し赤くした彼女がそっけない態度を取っているのが、可愛い。そして、口ではそう言いながらも、ドアの前で僕の支度を待ってくれているのが、嬉しい。


「それで、会長。どこに行くんですか?」


「その、近くにクレープ屋さんが出来たらしいのよ。それを、食べたいなって、思って」


 しりすぼみになっていく言葉と共に彼女の顔が暗くなる。


「でも、どうせ、私には似合わないわね。やっぱり――」


「行きましょう! 会長は何を食べていても、似合いますよ。クレープなら、きっと会長のかわいいところを引き立ててくれますよ!」


 その言葉に嘘はないが、きっと彼女は冗談だと思っているに違いない。それでも、彼女はこういった。


「ありがとう。さ、行きましょ」


 生徒会室のドアを開けて、彼女は部屋を出る。僕も彼女についていく。


 この後、彼女はクレープのクリームを口と鼻に付けてしまい、軽いパニックになってしまうのだが、僕としてはそういう彼女の新しい一面をもっと知りたい。明日も明後日もこれからずっと、彼女の横に並んで努力をしよう。彼女と並んでいても、笑われないように。


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