鉄面皮の乙女

「何やってるの。早くなさい」


 冷血、鉄面皮、女王。それが周りからの評価。生徒会長としての役目を果たしているだけだったのに、いつの間にかそういうあだ名がついていた。おかげで、一年のころに仲良くしてくれた人たちもいつの間にかどこかに行ってしまった。生徒会には私以外には自称雑用係しかいない。雑用係というものの、その能力は私以上と言ってもいいかもしれない。しかし、彼は人が良すぎるのだ。だから、決断が出来ない。


――もう、なんでこんな言い方しかできないのかしら。


 彼は生徒会にいきなり入ってきて、仕事の手伝いをする自称雑用係です、と言って仕事を手伝ってくれている。私が彼に何かした覚えはないのだけれど、彼は私に恩を感じているらしい。詳しくそのことを訊いたことはない。


 そして、誰もが私に冷たい中、彼だけは私と一緒にいてくれる。私の口から出るのは冷たい、突き放すような言葉ばかりなのに、彼は既に三か月以上手伝いをしてくれている。


 最近、気が付いたが、私は彼のことが気に入っているらしい。素直に言えば、恋愛感情を抱いているということだろう。こういう堅苦しい言い方をしないと、照れで死んでしまいそうだ。


「会長。どうかしました?」


「え、いえ、なんでもないわ。それより、いい仕事ね。ありがとう」


 私に彼に言えるのはこれくらいだけ。冷静を装っているが、とても動悸がしている。この鼓動の音が彼に聞こえていないか心配だけど、それを訊くなんてことはできない。何とか、下を向いて、彼の作ってくれた資料を見ているふりをする。ちらっと視線を上げると、彼が目の前の机に座っている姿が見えた。


――盗み見なんて。でも、どうしたら……。


 彼が少し視界に入るだけで、にやけそうになる。彼が一緒に歩いてくれていれば心強い。一緒の空間にいるだけで、胸がいっぱいになる。


 ドラマや漫画を読んだことはあるけど、本当にこんな気持ちになるとは思わなかった。彼が来る前は、生徒会室に来るたびに胃が痛んでいた。仕事をする度に誰かから嫌われている気がした。でも、今はこの部屋に来るのが楽しい。先にここに付けば、彼が来るのを、そわそわしながら待ってしまうし、彼が先に来ていれば嬉しくなる。


 まったくもって仕事が手に付かない。目の前に彼がいなくても、彼がどこで何をしているのか気になってしまう。


 何とか仕事を進めている間に日は落ちていく。いつの間にか橙の光が部屋に入り、活動を終える時間だと告げる。


「今日はここまでにして、また明日にしましょう」


「はい! そうしましょう」


――明日も、また会えるかしら。

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