足りないものって……

 僕には足りないものがあると、親友は言う。それはそうだ。僕自身も、自分に足りものなんてたくさんあると思っている。でも、それをいつもいつも、面と向かって言われると、だんだん腹も立ってくるというもので。




「だから、いっつも、そうやって、足りない足りないって言って、うるさいんだよ!」


「あんたに足りないものがあるのがいけないんでしょ!」


「あー、まーた始まったよ」


 空は青から橙に変わり始めた夕方。あたしたちは下校中。一人は気弱そうな眼鏡をかけた男子で、その男子と言い争いをしているのは、明るい茶髪をサイドテールで纏めている女子。それを眺めているのがあたし。


 あたしにとって、この言い争いは日常茶飯事だ。あたしはそれを毎回毎回なだめるのが面倒くさくなってきていて、最近は周りに人がいなければ好きなようにさせている。


「なんだよ、毎回毎回言ってくるその足りないものってのは!」


「おんなじこと何回も訊かないでくれる? 自分で考えなさいよ」


「あーあ、またチャンス逃した」


 あたしがこの二人と仲良くなったのは、一年前の五月ごろ。最初に仲良くなったのは怒鳴る女子で、そのあと三日後くらいに知り合ったのが怒鳴る男子。最初は弱そうとか思ったものだが、案外運動神経は悪くなく、ナンパされていたのを救ってもらったこともある。


「だけど、まぁ、今週は毎日、イチャイチャしてるねぇ」


「これのどこがイチャイチャしているんですか」


「そーよ。ちゃんと眼鏡吹いた方がいいんじゃない?」


 この通り、息がぴったり。両手を二人に向けて、どうどうとジェスチャーする。それで満足したのか、二人は顔を見合わせ、再び口を開き、ケンカし始めた。まぁ、あたしにはもうイチャイチャしているようにしか見えませんけどね。


 はぁ、あたしも好きになれる人がほしい。

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