第5話 幹部襲来

《魔王軍襲来! 魔王軍襲来! 冒険者の方々及び、駐屯兵団の皆様は急いで東の門に集まってください!!》

町の放送から権幕な様子で聞き覚えのある声が聞こえてきた。

昨日は飲み過ぎて頭が痛いのに、大きな音のせいで体調が悪化しそうだ。

この放送を聞いてセレナとラミアが。

「おい、カズヤ行くぞ! 魔王軍だ、魔王軍が来てくれたんだ!」

「サンタクロースが来たみたいな喜び方すんな! 緊急事態なんだよ」

「はあ……魔王軍。きっと屈強な魔族たちが襲ってくるんでしょうね……。そこに撃つ究極火爆発はとても気持ち良いに決まってます!」

「そんな悠長なこと言ってる状況じゃないんだよ!」

…………っ! 二日酔いのせいで頭痛がひどいのにツッコミさせるんじゃねぇよ……。そういえばディアさんが言ってたな進軍を始めたって。じゃあこれはディアさんを救出するための攻撃か?

気になるな…………。行きたくない、行きたくないが好奇心には勝てない……!

「よし行くぞみんな!」

俺の掛け声に元気よく答えるセレナとラミア。声こそ出さないがコクコクと頷くスイナ。

「あ、一つ言っておくが危険になったらすぐに逃げるからな。それだけ頭入れとけよ」

そして俺たちは東の門に急いだ。




                 ~東の門にて~



集まった大勢の冒険者、駐屯兵団をかき分け、魔王軍たちが見えるところまでやってきた。ざっと二千程の兵がいそうだ。その中でひと際目立っている奴が二人。一人は眼鏡をかけてシュッとした体型、紅紫色の髪と瞳をしている。スーツを着ているおかげか、できる男という感じだ。もう片方の女は露出度高めの動きやすい戦闘服を着ていて、褐色の肌、黒髪で山吹色の瞳。その二人が息を合わせて。

「「私たちの大将を返してもらおう! 初心者冒険者の人間共!!」」

あ、あの時ディアさんに帰れって言えばよかった…………。

セレナとラミアが大勢の魔王軍を見て。

「なあ、面白くなってきたんじゃないか!? 私は……どうなってしまうんだろう…………!」

「撃ちます! 撃ちますよ! 絶対究極火爆発撃ちますよ!」

「二人ともうるさい黙ってろ! 今そんなこと言ってる場合じゃないんだよ!」

というか今ディアさんどこにいるんだ。あの人さえ連れて行けばこいつら居なくなるよな? よし!

「セレナ、ラミア、スイナ! 俺今からちょっと人捜してくるから待って…………って何勝手に戦いに行ってんだよ!?」

「手合わせ願う! あくどい良い顔をしている眼鏡男!」

セレナが剣を抜き眼鏡男と剣を交える。

「なんだお前、俺は魔王軍幹部のグラシアス様だぞ? 人間ごときがたてつくんじゃない!」

「人間ごとき? どうせ蔑むなら豚と呼んでくれ!」

「何なんだこいつは!? ふざけるのもたいがいにしろ」

セレナとグラシアスと名乗る男が戦闘を開始する横でラミアとスイナが女と対峙している。

「私の名はラミア。相棒のスイナと共に最強の魔法使いを目指す者!」

ラミアが謎の口上をする横でスイナが珍しく興奮気味でコクコクと頷いている。

「私は魔王軍で最強の魔法使いサディス。そんな私にによく言ったわね、小娘が!」

「な、なんですと!? ではあなたを倒せば私は世界最強の魔法使いになれるということですね!」

「なんてポジティブ思考なのこの子……」

まさかスイナまで首を突っ込むとは思ってもみなかった。このまま放っておけばまず間違いなくあいつらはやられるだろう。

呼びに行っている暇もなさそうだ…………。

………………なんでいつもいつも俺が尻拭いしないといけないんだ。本当なら異世界転生ってもっと…………もっと……。

…………仕方ねぇ。

「お前ら動くんじゃねぇぞ! こっちは魔王を人質に取ってんだ。俺たちに攻撃するとどうなるか……分かってるよな?」

俺の言葉を聞いて、一瞬で静まり返る群衆。こんなはったりはもちろん通じないだろう。が、相手が疑心暗鬼になるだけでいい。それだけで戦況は変わる筈だ。

「ラミア、スイナこっちに戻ってきて魔法の準備だ! セレナはそのまま戦ってろ!」

「撃たせてくれるのですか!? 今行きます!」

「分かったできる限り耐えてみせるが、この男に圧倒されすごい目に遭ってしまうかもしれないが…………大丈夫だ!」

俺たちの会話を聞いて何か策があると悟った冒険者、駐屯兵団は。

「あいつらが何か幹部たちを倒す策があるようだぞ! それまで食い止めるんだ、この町を守れ!」

と、言い二千程の魔王軍に立ち向かう。

これでかなりの時間が稼げることになった。

「【魔力吸収】」

「くおぉぉぉ! 来てます来てます、今まで以上の魔力が来てますよ!」

「当たり前だ、今……魔力回復ポーションを…………飲みながら魔力を送ってるんだからな。これで二回は撃てるはずだ」

「二回ですかぁー。えーもっと撃ちたいですよ!」

「わがまま言ってんじゃねえ。これが俺の今できることだ。二回も撃てば魔王軍幹部といえどただじゃすまないだろう。頼んだぞ」

「…………! 任せてください、私のすごさを知らしめてやりますよ!」

「そのいきだ」

……さて、ディアさんを探しに行きたいが正直あの魔王軍幹部とか言う奴らにムカついている。せっかく冒険者稼業も慣れてきたところなのにこんな事態に巻き込みやがって…………俺を敵に回したことを後悔させてやる!

俺は戦っているセレナのところに駆け寄る。

「セレナちょっと離れてろこいつらに言いたいことがある」

俺の真剣な顔を見て素直に離れる。

「なんだよ、今度はお前がやるのか? 正直さっきの女のほうが強そうだな」

「強いかどうかなんて分かるんですね、そっちの女の人なら倒せると俺は思ってるんですよ」

その言葉を聞いて女の幹部が遠くから走ってきた。

「私なら倒せるですって? 馬鹿なんじゃないのあんた。体だけ見ると私のほうが細いけどね、魔法に関してはあんたより数億倍上よ」

「へぇーそうなんですか。じゃあ何でそんなすごい幹部さんたちが初級冒険者たちに攻撃しようとしてんの? 弱い者いじめなの? どうなの?」

ここぞとばかり煽る俺。その煽りに対してイライラしている様子が隠せないでいる二人。ここまでは俺の作戦通り。

「こんな俺に煽られてイライラしてるとか…………お二人さん小物すぎません」ケラケラと笑いながら吐いた俺のセリフにブチギレらしく全力で走って逃げる俺とセレナを追ってくる。

「「待てやコラァ! 誰が雑魚だ! 舐めんじゃねぇ!」」

「あっはっは! 来たぞあいつら」

「何を笑っているんだ! いつもはカズヤが私を止める役割なのに今日はどうしたんだ! 魔王軍幹部を煽るなんて正気じゃないぞ!」

「勝負を勝手に仕掛けたお前には言われたくねぇぞ! それと正気じゃないって言ったか? 魔王軍幹部と戦うんだから正気でいられるわけ無いだろうが!」

「それもそうだな。それでいつもは用心深くて私達のブレーキになってくれるカズヤ。煽ったからには作戦はあるんだろ?」

「ああ、もちろんだ! セレナこのままあの崖の方に行くぞ。ついてこい!」

「ああ!」

崖の方まで少し距離があったがなんとか追いつかれずに辿り着いた。

「はぁはぁ……全くどういうつもりだ人間……」幹部の男が疲れながら俺に文句を言う。

「まあまあ、とりあえず上、見てみろよ」俺は空を指差しニコっと笑う。

二人の幹部は見上げた途端血の気がさあっと引いていた。

「「な、何だあれは!」」

空に浮かぶ無数の魔法陣。その正体はラミアの究極火爆発を二つ重ねたもの。威力は倍にまで膨れ上がっている。

「お、おい待て! それを撃つとお前たちまで巻き込まれるんじゃないか? 考え直せ!」

「残念でした。俺はこんな事もあろうかと転移魔法を覚えてるんだなー」

「な!? 待って待って! すいません調子に乗ってすいませんでした! だから見逃してください! お願い!」

「んー…………やだ!」

俺はぱちんと指を鳴らし、セレナと共に安全な位置に転移した。

この転移魔法はラミアに教えてもらった。俺の使用可能な魔力ギリギリを消費するこの魔法はいざというときに取っていた。やはり習得していて正解だったな

俺が移動しラミアに撃てという合図をしたその瞬間。

「一世一代の大魔法! 行きます!」

魔法陣が空に何枚も重なる。それは新たに組まれた魔法術式。二回に分けて撃つと思っていた俺は瞬時にそんなことができるラミアに素直に感動してしまった。あんな変態魔法使いだがやはり才能と実力は確かなんだな。

「【究極火爆発二連術式】!」

倍に膨れ上がった魔法の威力は以前とは比べ物にならないほどで、破壊の神と呼ぶべき魔法になっていた。以前も地面をえぐっていたが今回は高温すぎて地面が液状化しマグマのような状態になっている。ボコボコと音を立てながら熱気を放っている。

魔王軍幹部のグラシアスとサディスは跡形もなく消失していた。それを見て。

「お、おお! あいつらが魔王軍幹部たちを倒したぞ!」

と、群衆が騒ぎ出した。

リーダーが倒されたおかげで魔王軍たちは怯えて慌ただしく帰っていった。

「おーい、ラミア大丈夫か? そんなところに寝転んでると踏んじまうぞ?」

「大丈夫です。ちょっと威力が大きすぎて体への負担が予想を上回っただけなので五分もすれば治ると思います」

ラミアは想像以上消耗したのか魔法を撃ったところに寝転がっている。それを介抱するスイナはいつもの無表情ではなく笑っていた。

そんなラミアとスイナ頭を撫でながらセレナは。

「あれだけの威力だったんだ仕方がないさ。帰ったらカズヤがご褒美をくれるらしいし早く帰ろう」と言い笑う。

「ちょっと待て、何の話だよ。…………まあ、三人とも頑張ってたし今日くらいは何でも奢ってやるよ」

これくらいのご褒美は良いだろう。頑張ったんだこれくらい…………。

「じゃあ私を罵って………………」

「それは嫌だ」

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