第25話 違和感

 帰りながら、賀平にメールを送る。

『気づいたら、返信してください』と簡潔な内容。

 もう少し文章増やしたほうがいいかも、とか思ったが、送ってしまったのでしょうがない。だが結局家に着くまでに返信はなかった。

 夕食を食べ終わっても、連絡はない。


「う~ん」


 こういう連絡を取り合う時は、タイミングが重要だなんてテレビ番組でやっていた。まずはメールで相手に探りを入れつつ、チャンスだと思った瞬間電話に切り替える。これがベストな連絡らしい。そもそもチャンスだと思った瞬間って、いつなんだろうという疑問もある。そういう曖昧なところは、テレビ番組では教えていなかった。

 ここは、度胸を見せるべきか。


「ふう……」


 一呼吸置いて、俺は賀平の電話番号を入力する。

 いつも通りの電話音が鳴って、何回かコールが流れて。

 この流れだと、そのまま「相手は連絡を取ることができません」という無機質な言葉がケータイから流れてくるのだろうが。意外にも、そんな展開は訪れることはなく。


『先輩、ですよね?』

「そうですけど」


 久しぶりに賀平の声を聴いた気がする。


『ごめんなさい。電話番号交換していなかったんで、誰から連絡がきたのか分からなかったので、出るのに躊躇しちゃって』

「あれ、連絡先交換しなかったっけ?」

『私が連絡先教えただけですから。先輩が連絡してこないと、私は連絡先知らないままなんですよ?』

「俺のせいってこと?」

『そうですね』


 ちょっと悪いことをした。


「メールに返信がなかった理由は……」

『ごめんなさい。それは私が気づかなかったからです』

「ああ、そう」


 ちょっと違和感。


「体調はどう?」

『明日には学校行けると思います。今日は大事を取って』

「分かった。それでな、賀平がバイト先に忘れてた水筒を、店長から預かっているんだが、明日渡してもいいか?」

『はい。店長からも連絡来てましたよ。明日よろしくお願いします』

「お、おう……」


 沈黙。

 電話越しで話しているから、相手の姿はもちろん目の前にはない。

 そのせいもあって、距離感というか、日頃直接話す相手と電話越しにどう話せばよいかちょっと分からなくなる。

 そして、先ほどの違和感の正体もなんとなくつかめてくる。


「本当に明日会えるかな?」

『会えますよ』

「そうか」


 淡白で、端的に。

 賀平の今の印象はそんな感じ。もしかしたら、賀平は外と内でのテンションを切り替えているかもしれない。家にいるから、無理する必要もないのかもしれないけど。

 ちょっと、賀平の裏の顔というか、いつもと違う顔を覗いているな気がする。


「明日、さ」

『はい?』

「一緒に登校しないか?」


 多分今まで、誰にも言うことのなかった言葉だった。

 賀平の別の側面、ちょっとした違和感に胸がざわついているから。

 理由も分からない、ただ何となくそう思っているだけ。

 そんな訳も分からない憶測だけど。

 心のどこかで、確信めいた何かがあって。


「お願いだ」


 強く、そうお願いした。

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