第18話 テスト終了
テストも今日が最終日。
ラストは、国語と副教科一つで終了だ。
ここまで琴葉の自己採点は赤点ラインを下回っていない。国語は解くことに苦戦する問題が沢山ある。
「登場人物の気持ちなんて、分かるわけないじゃん!」
なんて、琴葉は国語の問題を解く時はいつも嘆いている。
こんな風に琴葉の苦手意識があるため、漢字問題や語句の問題などの暗記部分を必ず解けるようにした。後はある程度は適当に、記号問題は当たれば勝ち戦法で琴葉の国語対策は終了している。
多少運が絡んでいるが、ここまで凌いできた悪運が今もまだ続いていることを祈るしかない。
「(というかまあ、俺もピンチなんですけどねぇ)」
連日、凍え死ぬぐらいの寒さを体感する夢に襲われている。
結果、睡眠不足も重なり体調はすこぶる悪い。集中したいのに、集中できない。気分も悪い。さらに国語の文章の多さが、俺に眩暈を与えてくる。
『大丈夫ですか?』
いつも俺の背後でうようよ浮いているだけのさくらも、流石に俺の状態を見て心配してくれているようだ。話すわけにもいかないので、俺は答案用紙に「大丈夫」と書いて、さくらに伝えるようにその箇所を指さした。
『そうですか』
そう一言言って、彼女は教室の外へ壁をすり抜けて出ていった。
ああやって自由に壁をすり抜ける体をちょっとうらやましいと思う自分がいた。
なんとか問題を解き続けて、気づけば終了15分前。見直しする気分ではないので、解答用紙と問題用紙を裏返してテストから現実逃避することにした。
視界の端では、頭を忙しなく動かす琴葉が見える。鉛筆を転がしてみたりしているが、まさか記号問題全部それで解いているんじゃないだろうか……?
悪運があるとはいえど、まさかそんなところまで運に頼ろうとしているのか、琴葉よ。琴葉は相変わらず頭を悩ませているようだ。
「(まあ、国語一つの追試ぐらいだったら……)」
文化祭の準備もあるから、付きっ切りで勉強を見ることはできないだろうけど。
テスト終了後の二週間後の土日が文化祭。終了直後から文化祭準備は佳境に入る。一応まとめ役の俺は、そっちに付きっ切りになる。
テスト終了後も、大変さは変わらない。この体調不良も治していかないといけない。
「(にしても、あの悪夢を連続で見ることになるなんて)」
呪いに関係する悪夢を、こうも連続で見ることになったのは初めてだ。
ちょこちょこ見てはいたものの、あそこまでハッキリと現実世界まで強く影響する悪夢は最初の頃以来だ。
毎回全く同じ夢を見ているだけあって、夢の内容ははっきりと覚えている。
チクタクと針を進める時計を眺めながら、気分を悪くしない程度に昨日のことを思い出していた。最初に見た三つの悪夢の一つ。悪夢は首吊り桜の呪いと繋がっていて、これから悲劇が起きるであろう三人の誰かの意識を映した夢だという。
ならあの悪夢は、一体誰の意識を繋げたものなのだろうか。
夢の内容を詳しく覚えてはいるけど、その意識の正体が分からなければ夢の内容の真意にはたどり着けない。部屋に埋め尽くされたゴミ袋に、真っ暗な窓と開かずの扉。そして何より永遠に続く凍てつく冷気だ。夏を迎える季節だというのに、毎朝震えながら目を覚ます。
「さあ、テスト終了だ。答案用紙を後ろから前に渡していってくれ」
人間関係があまり良好ではない自分にとって、あの悪夢で繋がれた先が誰なのかはだいぶ絞れるわけで。ただそれでいても、その先に誰かがいることだけが分かっていて、その正体まで判別できない。予想すらも立てられない。
だから、対策もできないし、行動もできない。
首吊り桜の歴史からアプローチしていくことしかできない。呪いだというのだから、今まで起こったこととあまり変わらないことが起こると予想を立てた。
だが現状分かっていることは少ない。
なにせ呪いの発生頻度が数十年単位だ。残っている資料も前回発生したぐらいのものしか残っておらず、俺の家の蔵に真相に迫れるものもない。
「よし、これでテストは終了だ。文化祭、頑張れよ~」
先生が教壇から降りるのと同時に、教室は一斉に騒がしくなる。
そんな教室の中でも、一際騒がしい台風がこちらに近づいてくるのが見てなくても分かった。
「終わったあああああああ!!!」
「うるさいぞぉ」
体調は最悪なので、そこまで大声が出せず、気の抜けたツッコミしかできなかった。
「というか、鉛筆転がしで記号問題やってただろ」
「げっ!? バレてた! もしかしてカンニング?」
「なんでお前の答案をカンニングする必要があるんだよ……」
「本当にわかんなかったところだけ、鉛筆使っただけだから!」
琴葉は筆箱からさっき使っていたであろう鉛筆を取り出し俺に見せてきた。
鉛筆の上の部分を削り取られていて、そこに数字とアルファベットがランダムに配置されている。記号問題で使われる記号は、先生の好みで違ったりする。別の記号が書かれているのは、そういうことなんだろうけど。
「琴葉さ」
「なに?」
「お前まさか他の教科も、これ使っていたのか?」
「……そういえば、今日は賀平ちゃん来てなかったね」
「話を逸らすな、話を」
多分他の科目でも、何度か使っているに違いない。琴葉の目はそういう目をしている。
「賀平は体調不良らしい。メールで連絡来てた」
「そうなんだ。体調不良なんて、始めて見たね」
「そうだな」
実はバイトも頑張っていて、SNSでの活動も頑張っている。それでいて、学校には毎日登校していて、しっかり勉学もできている。
目の前の誰かとは違って、かなりの優等生だ。そんな賀平が体調不良で学校を休むなんて姿を、俺も今日が初めてだ。テストの日に体調不良だった場合は、体調が治り次第個別でテストが行われる。噂では問題文がかなり書き換えられるとかなんとか。休んで問題用紙を誰かから拝借するなんて芸当はできない。
まあ、賀平なら満点とか取るんだろうけど。
「でも、気になるな」
「だよね。昨日あんなに元気だったのに」
昨日も帰りを一緒にした。
その時の賀平は全然元気で、体調不良を感じさせないふるまいだった。
なんとなく、悪夢のことを思い出した。
「……ちょっと、心当たりあるところに行くか」
自宅の場所は、賀平が巧妙に隠していて知らない。
だが、賀平が深く関わりを持つ場所を一つ知ってる。もしかしたら情報が得られるかもしれないし、放課後そこに向かってみるか。
「そんなことより、文化祭の出し物大丈夫なの?」
「……肝心のタピオカジュースの用意はもうできているから、あとは飾りつけとかかな。これはクラスの皆に頼んだ方がいいかも」
「なんで?」
「センスがないから」
というわけで、クラスのセンスがある男女数人を集めて、これから二週間やるべきこととそのスケジュールを把握してもらう。当日の運営は俺が主体で行うため、当日の全員の動きを決める必要がある。文化祭は土日両方で開催されるため、考えることも多い。俺はそっちに集中したいので、そのほかの部分は全て任せたい。
「琴葉は俺の手伝いしてくれ」
「わーい!」
「まあ、お荷物ぐらい増えたところでだな」
「私が呼ばれた意味は……」
とにもかくにも、文化祭が終わるまで大忙しだ。
呪いの一件もあるというのに。もしそうなら、実行委員の仕事なんて引き受けるんじゃなかったなと後悔した。
もし叶うなら、文化祭当日だけでも楽しめたらいいな、と。
ちょっと願うだけなら、いいだろう。
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