第17話 映えの意識

「先輩、もう少し待っててください。まだ納得のいく写真が撮れてません」

「あいあい」


 テスト四日目の午後。

 テスト最終日に向けてテスト勉強をしなければならない大切な時に、俺は賀平と一緒に近くのカフェにやってきていた。

 新しくオープンしたわけでもない、子供の頃からあったらしいカフェである。

 琴葉は用事があるらしく、先に帰宅した。珍しいことではあるが、母親から急かしの電話があったから母親との用事だろう。とりあえず、琴葉にはやるべきことはしっかり全部託してあるから安心だろう。


「あ、撮れました! じゃあ、次は写真の加工するのでもう少し……」

「十分以上待たされる身にもなれ。ホットコーヒーがもうぬるくなり始めてるぞ」

「もう! 女の子には優しくしないとダメじゃないですか!」

「強制的に連れてこられた挙句、待ちぼうけ食らう奴の気持ちも考えてくれ」

「ごめんなさい! 先輩よりもSNSの更新が大事なんです!!」

「…………」


 ずっとスマホをいじる賀平を無視して、俺はコーヒーに手を付けることにした。

 なぜテスト週間で、最終日前日というこんなにも大事な日に、俺はこんなカフェに連れてこられているのだろうか。賀平はカフェのオーナー直伝のカフェラテを飲んでいるが、SNSで人気なドリンクと比べても見劣りしている。それをなぜSNSに写真を挙げないといけないのか、理解不能である。


「ただのカフェラテなのに、SNSでバズるなんて思わないんだけどさ」

「えぇ、それは単に挙げる人の力がないだけじゃないですか?」

「ああ、そう?」

「SNSよく使ってる人は”映え”なんて言葉を使いますけど、皆曖昧な感じで使ってるだけだと思うんですよね」

「ほう」

「夢が最高と思ったものを、見ている人が同じように最高だと思える。それが”映え”だと思うんです」

「へえ」

「ここのカフェのカフェラテ本当に美味しくて、結愛大好きなんです。毎週一回はここに通うようにしてるんです」

「はあ」

「ここのカフェラテの美味しさをどうやって伝えようか試行錯誤していて、それでようやく昨日思いついたんです! このカフェラテが美味しいってこと、絶対伝えることができると思います!」

「すげ」

「返事適当すぎですよ」


 ぬるいコーヒーを啜りながら、俺は窓の外の景色をただ眺めていただけだ。


「先輩も、もう少しSNSに興味持った方がいいですよ」

「どうでもいいよ。別に何か広めたいわけでもないし。そもそも、賀平は何のためにSNSで活動しているんだ?」

「何のために、ですか?」

「そう。目立ちたいとかさ、お金が欲しいとか色々あるだろ?」

「え~と」

「…………」

「なんででしょう? 考えたこともありません」

「理由もなく、毎日SNSやってんの?」

「そんなに可笑しなことですか?」

「いや、いいことじゃないか。夢中になることがあるのって、いいことだよね」


 いやそれ、ネット中毒では?

 という言葉を、出る寸前に飲み込んだ。


 理由もなしに、ただただ自分の理想の写真を挙げ続ける少女。

 彼女をそこまでさせる原動力は一体何なんだろうか。

 俺がコーヒーを飲んでいる間も、スマホから手を離さない。


「カフェラテ、飲んだら?」

「え、あ、そうですよね! せっかくのカフェラテですから」


 俺の言葉にようやく気付いて、賀平はカフェラテを飲み始めた。

 なんだろう。ちょっと違和感である。


「まあ、なんだ。SNS以外も大切にしろよ」

「もちろん、先輩のことも大事にしますよ~」

「……はいはい」


 いつの間にか飲み終わっていたコーヒー。

 カップをテーブルに置いて、俺は同じコーヒーを頼んだ。


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