第12話 何のために

 賀平の家の近くまで、送ることになった。

 日は落ち、辺りは暗く、街灯が無ければ道の先は見えない。

 町の外れを歩いているからか、中心部よりも賑わっていない。時々自転車で駆け抜けていく人とすれ違うぐらい。不審者が出たなんて話も聞かないが、暗い夜道に自分たち以外誰もいないという状況だ。何か変なことが起きないよう、周りに注意しながら歩いていく。


 賀平は嬉しそうに、ちょっとスキップしながら、俺の隣を歩いていた。

 バイト終わりで疲れているだろうに、それを感じさせないほど俺に話しかけてきてくれた。


「それで、めんどくさいおじさんがラストに来ちゃって、対応大変だったんです。ナンパとかよくされるけど、あーいう下心見え見えなのって、ほんと無理なんですよ」

「ナンパされるんだな」

「結構地味な格好してるんですけど、分かる人にはわかるんですかね」

「地味な服装、かぁ」

「帽子被って眼鏡かけて、マスクつけたらどうにかなると思ってるんですけど。気づく人はしっかり気づくんですよ、結愛の魅力に」

「さいですか」

「海人先輩は、結愛の魅力に気づける人ですか?」

「気づく気付く」

「て、適当な返事ですねぇ」


 賀平は怒ったのか、俺の脇腹をグーパンチで軽く数回殴ってきた。

 特に痛くもないので、無視しながら会話を続ける。その反応にも何か思うことがあるのか、パンチの威力が少し上がった。


「今日は前よりちょっと早い時間に終わってるけど、決められた時間で働いているわけじゃないんだな」

「……店長が私の親族と言いますか、相談しながらシフト決めてるんですよ。他の働いている人も優しい人ばかりで、助けてくれたりとか」

「そうか。優しい人に囲まれて、良かったな」

「そうですね……」


 賀平の反応がちょっとおかしいのが気になったが。

 バイトしていることに対する罪悪感だろうか。学校ではバイトが禁止されているらしいが、それでもバイトをしているということは何かしらの理由があるはずだ。バイトしなければいけない状況なんて、あまり口にしたくはないことばかりだ。

 彼女は多くのファンを持つインフルエンサーの一人だから、その活動のためにお金が必要であることは理解できる。彼女もそういった理由であることは、前に話してくれた。


「無理はしないことだぞ」


 これが、今の俺にできる精一杯のアドバイスなのかもしれない。


「結愛が無理してるな、て感じたら、助けてくださいね」

「善処するよ」

「先輩って、変なタイミングで優しくなりますよね。照れ隠しなのかもしれませんが、ずっと優しい方がモテますよ」

「別にそういう気もないし」

「もったいないですよ。素材はいいのに」

「そ、そうかな」

「そうですよ。なんなら、結愛がプロヂュースしてあげてもいいです」

「それは遠慮しとく」

「一緒にSNSでブイブイいわせましょーよー!」

「いーやーだー」


 賀平が俺の腕をつかんで、ブンブン揺らしてくる。

 さっきのパンチと言い、何か雑に扱われている気がする。賀平はちょっと嬉しそうだから、別にいいけどな。


「バイト、どれくらいの頻度で入ってるんだ?」

「日によって勤務時間は違いますけど、大体週で五日ですかね」

「……働きすぎじゃないのか?」

「週五日って言ったら、聞こえ悪いですけど。実際は先輩の思ってるよりも、楽ですから」

「そうかなぁ」

「そんなに心配してくれるんだったら、一緒に働きませんか?」

「それは無理だな。学校で禁止されてるんだろ」

「真面目ですね」

「ただ」

「ただ?」

「夜道は危険だろ。言ってくれれば、できる限り迎えに行くよ」

「……優しいです、先輩」


 そこから、賀平と別れるまで、俺達に会話はなかった。

 別れて数分後、賀平からメールが届く。

 明日も迎えに来て欲しいという旨のメールだった。


『優しいんだね、あなたは』

「……呪いの件もある。賀平がそんなに頑張る理由も、多分なんか関係してるんだろうな」

『ただの自意識過剰な頑張り屋さんなんじゃない?』

「それに至るまでにも、理由はあるんじゃないかな」

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