第5話 幼馴染みとテスト勉強

「テスト勉強は順調かね?」


「絶対に俺のノートは見せないからな」


「な、なにを言ってるのかなー」


 そしてこいつは、明後日の方向を向いて下手な口笛を吹く。


「お前、提出物を写させてもらうつもりだろ」


「……」


 何故そこで黙る? 図星か?

 うろうろと放課後の教室を歩きまわっていたが、何かが閃いたかのようにニヤニヤと俺の方を見る。


 机を自分の両手が痛くならない程度の力で叩く。


「私を甘く見ないで! 今回のテストは本気なの! 提出物をちゃんと出して、いい点数を取るの!」


 真剣な眼差しだ。本気だ。俺には分かる。


「そうか、それは悪かった」


「だから、答えを写させてください」


 前言撤回。こいつ、頼る気満々でした。


「はぁ、だから俺が見せるわけ…」


 な、なんだ……この美しい一礼は!?

 洗礼されたかのようなお辞儀、置物のように微動だにしない姿勢。これは一度でできるような代物ではない。

 幾度となく、頭を下げてきたからこそできる……


「って、これ何百回目だと思ってんだ!」


「可愛い幼馴染みの頼み、聞いてほしいな」


 絶妙に似合っていない上目遣いで俺を見る。


「そんな目で俺を見ても無理なものは無理だ」


「そう言って結局私に見せてくれる、優しい幼馴染みだったのであった」


 めでたしめでたしと……


「勝手に終わらせるな」


 結局この茶番を経て、渋々ノートを見せたのであった。


 ……全然めでたくねぇ。






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