#38 夏の結実
母上ほどの人間がうっかりとは思えないので、僕はわざとバラしたんだと疑っている。
玲は、「上手だ」「綺麗だ」と最初は騒いでいただけだったが、これを描いたのが僕だと気が付くと「いつの間に描いたの?」「絵が得意なの知らなかった」「他にも描いたの?」と詰め寄ってきた。
僕は観念して、2冊スケッチブックを渡して見せた。
玲には内緒にしていたことを責められるかと心配していたが、そんなこと気にもしていない様子で、わぁわぁきゃぁきゃぁ言いながらスケッチブックをめくっていた。
渡したスケッチブック2冊には玲を始めとした人物画のデッサンが描いてあったので、2冊そのまま玲にプレゼントした。
スケッチブックを抱きしめて「ママにも見てもらう!」と言って上機嫌だったので、僕の心配は杞憂におわった。
8月の終わりの時期に、再び渚先生のご自宅にお邪魔した。
夏休みが終わると中々会えないということで、急遽決まった。
玲は、手作りのバウンドケーキを用意して、前回同様ラッピングにも凝って手土産として渡していた。
準備の時、今回も「あ~ん」と端の一切れを玲の手で食べさせて貰えた。ニヤニヤが止まらない。
僕は今回スケッチブックを持参した。
玲と先生がお喋りしている間、ひたすらミサキちゃんをスケッチした。
黙々とスケッチする様子に、二人とも呆れていたようだけど気にせず続けた。
スケッチしたミサキちゃんの絵は全て渚先生にプレゼントした。
渡した時、先生は驚いていたけど、喜んでもくれたので安心した。
玲は渚先生に対してはもう緊張することなく、僕や母上と話すのと同じ様にリラックスしている様子だった。
夏休みが終わり二学期が始まると、学校での玲は以前と比べ堂々としているように見えた。
積極的に周りに話しかけるようなことはしないけど、僕の影に隠れてモジモジするようなことはなくなった。
授業中先生に指名されると、声は小さいが返事もしていた。
とは言え、相変わらず僕にはベッタリだったので、周りからの僕らの扱いは相変わらずだった。
結局、8月玲とプールに行くことは無かった。
玲は「行く」と言ってくれたが、無理しているのが判ったのでその場で取り消した。
玲は罪悪感を感じたのか「ごめん」と言われたけど、「僕の我儘だし、玲を責めるのはお門違い。気にするな」と言ってその話は終わらせた。
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