#33 ザ・小学生と、ザ・お嬢様


火曜日。


朝7時に起きてシャワーを浴びて、出かける準備をした。


水分補給用のスポーツドリンクと二人分のタオルをリュックに詰め込んだ。

母上からデジタルカメラを貸してもらえたので、それもリュックにしまった。


服装は、動きやすいハーフパンツとTシャツにして、去年玲とお揃いで買った麦わら帽子を被ることにした。

ザ・小学生、と言える服装である。


手提げ紙袋に入れた手土産のクッキーも持って準備完了。


少し早いが8時半に玲の家を訪ねた。



花さんは既に出勤した後で、玲は一人で着替えなどの準備をしていたようだ。


「玲、準備できたー?」と玄関から尋ねると、スタタタタとリビングから駆け寄ってきた。


玲の服装は、一言で言うと、ザ・お嬢様、といったところか。


白いロングスカートのノースリーブワンピースに紺色のレースのカーティガンを羽織っている。


玄関にヒールの高いサンダルが用意してあるので、これを履く予定なのだろう。


僕の顔を見た玲は「あ、わたしも!」と言って、再び奥に引っ込んだ。


直ぐに姿を現した時には、お揃いの麦わら帽子を被っていた。


「今日は暑いからね。水分とタオルは僕のほうで準備しておいたから、遠慮なく言ってね」


「うん、ありがと」


「それにしても、お嬢様みたいだね。ドキっとしたよ」


「変じゃない?」


「全然大丈夫。むしろ僕のほうが普通過ぎて気後れしちゃうよ」


「ジンくんも変じゃないよ?」


「そうかな、でもありがと。さぁ行こうか」


玲が玄関の鍵をかけ、ウチに寄ってその鍵を母上に預けて出発した。



バス停までは徒歩5分、手を繋いで歩いた。

服装のせいで、何だか姉と弟みたいだ。



今日は朝から日差しが強く、バス停に着くころには額に汗が垂れ始めていた。

玲も暑そうにしていたので、タオルを渡してカーティガンを脱いだほうがいいと伝え、脱いだカーティガンを預かった。


予定よりも1本早いが直ぐにバスが来たので乗り込み、窓際の席に玲を座らせ隣に僕も座った。



乗り換えのJRの駅に着いて降り、次のバスを待っていると玲の顔色が悪くなっていた。


お腹が痛いと言うので、駅の構内へ連れて行きトイレへ行かせた。

10分程で出てきたので、調子を聞く。


キツイ様なら今日は取りやめようかと話すと「大丈夫、絶対行く」と頑なだった。

ひとまずベンチに座らせて、スポーツドリンクを飲ませてタオルを団扇替わりにしてあおいだ。


どうも本人が言うには、緊張しすぎてお腹が痛くなったようだ。

「背中ポンポンしてほしい」というので、ベンチに座ったままハグして背中ポンポンしてあげた。


そういえば、最近泣かないからハグする機会も少なくなったよな、と思い出しながら「大丈夫大丈夫」と諭しながら玲の気が済むまで背中ポンポンを続けた。


玲が「もう大丈夫」と少し復活したので、バスの時間を確認し、次のバスだと着くのが10時を過ぎそうだったので、直ぐ近くの公衆電話から渚先生のケータイへ少し遅れると連絡を入れた。


バスを待つ間、玲には「最近、手紙のことや洋服選びにクッキーも一日掛かりだったから、忙しくてきっと疲れちゃったんだね」と”渚先生と会話”することへのプレッシャーを意識させない様に話し、少し遅刻することくらいは気にするなと慰めた。












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