#34 僕の背中ポンポン、効果絶大
当初の予定より少し遅れたが、無事に渚先生のご自宅まで到着した。
玲は相変わらず緊張した表情だったが、自分でインターホンを押して挨拶するように促した。
もう一度ハグして欲しいというので、その場でハグして背中ポンポンし「ごめんください。石黒ですって言えば大丈夫だから」と励ました。
意を決して玲がインターホンを押すと返事は無く、玄関の扉が開いた。
どうやら、先生は僕たちが到着した時から気が付いていて、家の中から様子を見ていたらしい。
先生は玲の所まで駆け寄って、玲の両手を取って
「玲ちゃんいらっしゃい!遠いところをありがとうね!」と歓迎してくれた。
玲が固まってしまったので、僕の方から
「ご無沙汰しています。今日はお招き頂きありがとうございます」
と挨拶し、玲にも続くよう促すつもりで背中を摩った。
再起動した玲は
「ご無沙汰しています、石黒玲です。今日はありがとうございます」
と早口だがちゃんと聞こえる声で挨拶をして勢いよく頭を下げた。
先生は、玲の様子を見ながらうんうん頷き、感激しているようだった。
「ささっ、今日は暑いから中に入って入って」と先生の案内で玄関の中へ入った。
玲は緊張しながらも脱いだ靴をちゃんと揃えるのを忘れていなかったので、何となく今日はもう大丈夫な気がした。
リビングに通されて、預かっていた手土産を玲に渡し、玲の方から渚先生へ「良かったら食べて下さい」と手渡した。
ふと隣の和室を見ると、ベビーベッドが置いてあり、中でお子さんが寝ている様だった。
玲の肩をトントン叩いて、こちらを向いた玲に無言で和室を指さして教えた。
ベビーベッドのお子さんに気が付いた玲の表情がパァっと笑顔になったので、キッチンでお茶を用意している先生に「お子さん、近くで見てもいいですか?」と許可を取って、二人でベビーベッドの傍まで行き寝顔を眺めた。
お茶を持ってリビングに戻ってきた先生が「女の子で今1歳と2か月なの。名前はミサキね」と教えてくれた。
玲はベビーベッドにかぶりつく様にミサキちゃんの顔を見つめて「ミサキちゃん、かわいい」と独り言を呟いていた。
渚先生に促されてリビングに戻り、お茶を頂きながら一息ついた。
先生からは改めてお手紙のお礼を言われ、そこから先生と玲の会話が続いた。
僕はデジタルカメラをリュックから取り出して、ミサキちゃんや先生の撮影の許可を取って、会話する二人やミサキちゃんの寝顔を何枚も撮影した。
玲の体調はもう問題なさそうだった。顔色も表情も良くなっている。
しばらくしたら再び玲がミサキちゃんの様子を見に来たので、入れ替わりで渚先生とお喋りすることにした。
僕からは
玲が小学生3年生頃から少しづつ喋れるようになったが、まだ身内だけとしか話せないこと、
最近、料理やお手紙など色々精力的にチャレンジしていること、
玲が渚先生に手紙を出す為に、色々勉強や練習をしていたこと、
今日お邪魔する為のお土産の準備やら、玲が張り切って頑張っていたこと、なんかを話した。
先生からは
教え子が卒園後に手紙をくれたり会いに来てくれたのは玲が初めてで、短い保育士生活だったけど、玲の手紙を読んで保育士だったことを良かったと思えた、と教えてくれた。
特に、人一倍人見知りで大人しかったあの玲ちゃんが、と感慨深そうに語っていた。
お昼になり、先生が昼食を用意してくれると聞くと玲がお手伝いを申し出た。
二人がキッチンで料理している間、デジタルカメラで撮影した写真を確認していたら、ミサキちゃんが泣き出した。
渚先生にだっこしても良いか許可をとって、ベッドからそっと抱き上げて畳の上で胡坐をかいてだっこした。
「よしよし」と言いながら玲にするよりもずっと優しく背中をポンポンしていると、しばらくして泣き止んでくれた。
僕の背中ポンポンの効果は、散々実証済みなんだよ。
泣き止んだあともしばらく「よしよし」していると、その様子を僕のデジタルカメラで先生が撮影していた。
今日僕が写っている唯一の写真だ。
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