#08 3つの試練


僕たち二人の時間は、ゆっくりだけれども幼少期に比べ少しづつ少しづつ変化を遂げていた。



トイレには一人で行けるようになったし、もうおもらしすることも無くなった。




放課後、僕の家で黙々と読書に集中する玲。

玲の右に座り僕も別の本に集中する。




朝、僕の家へ迎えに来た玲が無言で髪留めを僕に差し出す。

それを受け取り慣れた手つきで玲の髪型をポニーテールに結う。

「ジンくん、ありがと」

「どういたしまして。 学校へ行こうか」




泣きたいのをブサイクな顔で堪える玲。

ここでハグで慰めると結局泣き出してしまうので、玲の手を僕は両手で包み込み。

「大丈夫、問題ないよ」と言い聞かせる。

「うん」と返事をして、玲は肩の力を抜く。

ちゃんと最後まで泣かずに堪えた。

エライぞ玲。





そんな僕たちだけれども、高学年になってくるとこの先のことが不安になってくる。


中学校へ入学すれば、これまでの様に”石黒玲だから仕方無い”と言って甘く見て貰えなくなるのは明白だ。


教師から呼ばれても返事が出来なければ叱責されるだろう。

先輩やクラスメイトから呼ばれて返事が出来なければ、いじめの対象になりかねない。


逆に、容姿の綺麗な玲のことだから異性から告白されることもあるかもしれない。

そんな時どうするんだ? 自分で答えられない玲の代わりに僕が答えるのか?

相手にとっても僕にとっても地獄だな。




そんな不安が胸のなかで燻っていたので僕は決意して玲へ、中学生に上がるまでに少しでも変われるように、変わる必要性をコンコンと説いた。


僕の話を聞いて玲はブサイクな顔で堪えていたけど、ここで甘やかしては意味が無いと心を鬼にして、次の3つを言い渡した。



①学校の中では、僕のシャツを掴むのは禁止。歩く時は横に並ぶ。


②読書以外の趣味を見つける。


③卒業までに僕以外とも話せる様になる。




1つ目と2つ目は何とかなるだろう。

問題は3つ目だ。


玲もそれが判ったのだろう。

顔を見ると絶望していた。

玲の絶望した表情を見たのは、小2の時に下校中に玲を置いてけぼりにした時以来だった。


あの時は、玲のお世話のストレスが爆発して、僕が自暴自棄になった為に起きた出来事だが、今回はあくまで玲の成長の為だ。

乗り越えるべき試練であり、僕もきちんと協力する。

玲にそう言い聞かせて落ち着かせた。




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