第7話 剣の奔流

 赤黒い巨大なゴーレムは機能を停止し、それを確認したメテオライトはエレメントドライブソードを納刀する。


『敵機体のエンジン沈黙を確認』


 カナタは沈黙した巨体を無言で見据える、まるで自らエンジンを落としたかのように見えたからだ。


「流石はSランクのゴーレムだな、驚かされた」


 クオンは不敵な声で言う。


 負け惜しみの強がりなどではないだろう、とカナタは判断しメテオライトに「いつでも迎撃出来るように」と小声で指示を出しておいた。


 1基だけアクティブ状態でないエンジンがあった事を考えると、あのアーマードゴーレムは巨体などではなくエンジン付きの鎧を纏っているのだろう。



「スカイブレイカー、ブリガンダインをベイルアウトしエンジンを独立モードで再稼働。ブリガンダインはオートフライヤーモードへ。スカイブレイカーのメインエンジン並びに各兵装アクティブ。各魔導術式オールグリーン」



 クオンがアーマードゴーレムに次々と指示を出していくと、巨体な鎧がバラバラと解体されていくがそれが終結し鳥を思わせる形状へと変形していく。


 その鎧の中からは純白の機体が姿を表す、白い騎士といった出立ちでありヒロイックな雰囲気を醸し出している。



「凄い、鳥さんに変身しちゃいました!!」

「何の技術だよ!?」

『Sランクのアーマードゴーレムともなればあの程度のギミックは不思議ではありません』

「それってアーマードゴーレムと呼んでいいのか?」

『むしろそれがアーマードゴーレムなのです』



 そもそもオリジナル、古代に製造されたSランクのアーマードゴーレムのデッドコピーがAランクからCランクのアーマードゴーレムなのでメテオライトの言っている事は正しい。



『マスター、攻撃しないのですか?』

「ここで攻撃するのはルール違反だし、下手な事をしたらフェノシア村を攻撃される可能性がある」

『なるほど、冷静ですね』



 鳥がブリガンダインへと変形し、スカイブレイカーと呼ばれた内部の白騎士は剣を抜く。



「さて、第2ラウンドといこうか。カナタくんとやら!」

「……!!」



 ギュンッ!! という風を斬り裂く音をメテオライトの集音機関が拾うと同時にメテオライトの機体は損傷を受けていた。



「うわぁっ!?」

「きゃあっ!!」

『これは、疾いですね』

「メテオライト、何があった……!?」

「いたた……身体をぶつけちゃいました」

『攻撃を受けましたね』

「分かってるんだよ!!」

『では、こちらも疾く動きましょう。オートマチックマニューバを起動します』

「オートマチックマニューバ?」



 オートマチックマニューバとはメテオライトの自動操縦機能である。


 メテオライトのAIが自ら判断し、最適なマニューバパターンを選出、その通りに動くというものだ。


 平たく言えばメテオライトが勝手に機体を動かすのだが、それは中身のことを一切想定していないスピードなので……



「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「ひゃわああぁぁぁぁぁぁ!!」



 カナタはメテオライトをフルスロットルで走らせた事がない。


 というのも、半分くらいのブースター出力でもとても制御しきれないほどピーキーな操縦性になってしまうのだ。


 しかし、メテオライトは現在フルスロットルで機体をかっとばしている。



「ちょ、ちょっと待て!! 死ぬだろこれ!? マジで死ぬ!!」



 メテオライトはバルカン砲やハンドブラスターを撃ちながら追い詰める。


 目指すはスカイブレイカー以上のスピードだが……。



「ほう、これは凄いな。しかし、スカイブレイカーなら捌き切れる」



 まるで先読みをしているかのようにスカイブレイカーは的確な回避運動を取る。


 これはあの機体の持つ特性なのか、クオンのパイロットとしての技量なのか、あるいはその双方か?



「しかし、あまり攻撃を受けるというのも鬱陶しいものだな。反撃をさせてもらおうか」



 スカイブレイカーの刀剣『フォースセイバー』を構成するパーツが分離し、宙を舞う。


 刀身を失ったフォースセイバーは柄からエネルギー光弾を発射出来る機構である。


 ではその分離した刀剣はどうなるかというと、自由自在に空間を飛び回るゴーレムの使い魔となるのだ。



「さて、この攻撃を見切れるかな?」

「なんだ……?」



 カナタはバラバラになった刀身がどんな働きをするのかまるで想像が出来ていない。



「カナタさん! 危ないです!!」

「多分あれで攻撃をしてくるんだろうってのは分かるけど……」



 スカイブレイカーを中心にグルグルと刀身が廻り始め、それが一斉にメテオライトへと飛んでくる。



『あれは、エッジストリームですか』

「なんだこれ……!!」



 エッジストリーム、それは斬撃の奔流。


 四方八方からの斬撃の乱舞は見切る事など不可能であり、回避運動すらままならない。



「さて、どれほど耐えられるかな?」



 メテオライトの装甲はそう簡単に破壊する事ははっきり言って不可能だが、連続で攻撃を受け続ければ複合繊維合金であろうと破壊されてしまう。



 ズバズバとひっきりなしに刀身の奔流が襲いかかってくる。


 メテオライトの装甲は傷つくものの、マッスルシリンダーや内蔵機関にダメージは負っていない。


 しかし、恐ろしいほどの斬撃が続くため装甲もそのうち破壊されきってしまうだろう。



「これ、ヤバいんじゃないか!?」

『エレメントドライブソードと同様、対象物を的確に斬れる機能があるかもしれません』

「メテオライト、この機体のコクピットって頑丈だろうな!?」

『ええ、もちろん。特殊な素材を使っていますしコクピット周りにはバリア機能があるためそう簡単には破壊されません』



 セイティアは急に青ざめて声を震わせ、カナタに問う。



「あの、カナタさん……もしかして、ピンチですか?」

「……今更かよ!?」


 

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