第6話 空の巨影

 クオン・リードブロム少佐は話し方や年齢、階級から察するに20代後半〜30代半ばほどの年齢だろうか、とカナタは考える。


 そして見たこともないようなアーマードゴーレム、赤と黒を基調としたカラーリングでありグレネードランチャーなどが搭載された重装甲のマシンである事が伺える……が。



『マスター、あのクオンと名乗った男の乗るアーマードゴーレムは明らかに不自然です』

「機体サイズも通常のアーマードゴーレムよりも大きい、だけじゃないのか」

『あの機体はエンジンを3基搭載していますが1基だけ非アクティブ状態です』

「アーマードゴーレムにエンジンを3基積んでるだと!?」



 どれだけアーマードゴーレムが高性能だろうと、エンジンは1基搭載が基本だ。


 そもそもアーマードゴーレムはフレームとエンジンに人格を宿すのだから、エンジンを複数搭載するなど有り得ない話だ。


 それとも、内1つだけに人格を記載して残り2つは純粋にエンジンとしての役割を果たしているのか?



「さて、君には選択肢が与えられたが……」

「選択肢だと?」

「その機体と共に投降し、我々の同志となるか……もしくは私と戦い、惨たらしく殺されるか」



 1機しか存在しない機体の事をワンオフ機と呼ぶが、恐らくあの機体は量産を目的としていないだろう。


 そしてそんな機体を難なく操れる人間は大体トップエースと呼ばれるエースパイロットの中でも抜きん出た腕前の持ち主だ。



「メテオライト、相手の機体の分析とか出来るか?」

『データベースが一切消去されているため何とも言えませんが、断言するとすれば我々では勝ち目が無いという事です』

「……だろうな」



 もしも、このままカナタが身を差して戦いが収まってフェノシア村が被害に遭わないのであればそれが一番良いのかもしれない。


 

「で、投降してこの機体を……メテオライトを渡したらこの村から撤退するのか?」

「私は略奪や虐殺は主義じゃない。しかし、君が投降を拒むのであれば手段は選ばない。それから、投降後の処遇も満足いくものを用意すると約束しよう」



 クオンの提示した条件はデメリットが無いものであった、しかし……カナタはどうしてもこのクオン・リードブロムという男の言葉を鵜呑みにして良いのか? という疑念が拭えずにいる。


 それはクオンという人間がカナタの嫌う人種であるから、というのが最も大きいのだが。



「投降するか、戦うか——二つに一つだ。どちらを選んでも構わないが私も君……双方が得をするのは君が私の元へ下るという選択だと思うのだが」

「……はっきり言って、アンタは胡散臭い。イチイチ言葉が長いんだよ」

「すまないな、私の悪い癖だ。それで、どうする?」



 考えるだけの時間はある。幸い、他に敵機は見当たらない……。


 ならば、とカナタはクオンに投降の意思を示そうとメテオライトに語りかける。



「ごめんメテオライト、もしかしたら悪い連中に加担する事になるかもしれない」

『私はマスターの意思のまま行動するだけです。マスターが最善だと思う行動であるなら、私は後悔しません』



 メテオライトが機械音声なりにカナタに優しい言葉をかける。


 しかしその瞬間、聞こえないはずの声が聞こえてきた。


 カナタは戦闘への緊張のあまり幻聴が聞こえてきたのかと思ったが、メテオライトのシートの後ろからセイティアの声がはっきりと聞こえてきたのだ。



「カナタさん! メテオライトを渡してはダメです!!」

「どうしてここにいるんだ!? セイティア!!」

「メテオライトはカナタさんにとって大事なものです!! 手放してはいけないものです!!」

「セイティア、話を——」



 急に通信機からカナタの他に急に女子の声が入り込むようになってきた。


 一体何が起きたのか理解ができないが、どうやらあのS級ゴーレムにもこの機体のように女の子がついてきたのか? などとクオンは思う。



「とにかく! そこの赤黒いゴーレムに乗っている人にはカナタさんにもメテオライトも渡しません!! カナタさんはカナタさんの道を進むんです!! カナタさんは飛空士になるんですからッ!!」

「フフッ……なるほどな!! それが、そこにいる少女の覚悟という訳か!! では改めて問おうか? カナタくんといったか、キミはどうする?」



 クオン・リードブロム少佐はカナタ・ウィルゲイズという少年に改めて覚悟を問う。


 クオンは大国・ルキアルド帝国軍でも指折りのエースパイロットである事が窺い知れる。


 しかも乗っている機体はエンジン3基であり、うち1基はなんらかの要素により非アクティブだが恐らくなんらかの形で稼働するのだろう。



「そうだ、俺は飛空士になるんだ。今はまだ無理だが、飛空艇を手に入れて……ソラの世界を旅するんだ。メテオライトは俺を認めて、受け入れて……俺をマスターと呼ぶ。そのメテオライトはセイティアの身元の大事な手がかりで……俺の相棒だ」

「結論は、出たかな?」



 カナタは大きく呼吸を吐き、目を見開き目の前に映る禍々しいマシンへ啖呵を切る。



「アンタにメテオライトは渡さない!! この村にも手出しをさせない!!」

「良いだろう。ではキミの心が折れるまで、存分に相手をするとしよう!!」



◆◆◆◆◆◆◆



 通常のスカイダイバーより一回り大きい上に堅牢な装甲だというのに、スカイダイバーと同等の……いや、ボックルS以上のスピードと運動性能だというのはなんの冗談なのか。



「なまじデカいから、距離感が掴めねえ!!」

『距離をとって射撃をしましょう』

「飛び道具じゃ攻撃が通らないんだよ!!」



 どうやらあの機体は表面にバリアのようなものを張っているらしく、飛び道具は弾かれてしまい装甲に傷をつける事すら出来ない。



『ハンドバスターも通らない、エネルギーロッドも通じない……ですが、バリアにも限界はあるはずです』

「限界って……」



 一見すると2基のエンジンが相互に補助し合い、無限の動力に見える。


 そして、並大抵の攻撃は弾かれてしまうためこちらは一方的に攻撃されるだけだ。


 しかしそのバリアの限界というのは、いったい何を指すのか。



『あの出力のバリアは長時間展開していると、いくら外装が重厚であろうと内部機関が限界を迎えます。そのためリミッターが設けられていると考えられます』

「なるほどな……」

『バリアが冷却状態に入れば、バリアは一時的に無効化されるはずです。それを待ちましょう』

「とはいえ、バリアなんて目に見えないぞ」



 装甲にエネルギーが吸収され、実弾は弾かれるというのが何となく分かるだけでバリアは可視化されていない。



『もしも冷却状態に入ったら私がお知らせします。それまで頑張りましょう』

「頑張りましょうってお前……!!」

『頑張ってください、カナタさん!!」

「あぁもう、分かったよ!!」



 グレネードやバルカン砲の雨、腰部からは高出力のエネルギーランチャー、近寄れば大出力のエネルギーソードが襲いかかってくる。


 メテオライトの特殊合金であろうとフレームごと破壊されてしまうだろう。


 クオンはメテオライトを破壊しないと言っていたが、それだってどこまで本気なのか分かりやしない。



「さて、そろそろ厳しくなってきたのではないかな?」

「そう見えるか?」

「言っておくが、メテオライトを破壊しないとは言ったが……パイロットの生死までは気にしなくていいと考えている」

「こっちは最初から命懸けだ!!」

「それは有難い、こちらも容赦をしなくて済むというものだ」



 赤黒いマシンが湾部の袖から高出力のエネルギーソードを放出しメテオライトに斬りかかるが、メテオライトはエレメントドライブソードで受け止める。



「まるで玩具の剣だなッ!!」

「いいや、無敵の剣だよ……!! こいつだって、斬り裂く事が出来る!!」



 エレメントドライブソードは魔導術式によって刀身の性質を変質させ、ありとあらゆる物質を斬り裂く事が可能となる。


 よって、スカイストリームで構成されたエネルギーソードであろうとエレメントドライブソードであれば斬り裂けるのだ。


 エネルギーソードはその刀身を形成する『芯』があり、スカイストリームの粒子を加速させる『外膜』があり外膜の奔流する粒子で物質を斬り裂く。



『マスター、エネルギーソードの粒子体系を捉えました』

「斬り裂けッ!!」



 エネルギーソードの外膜を斬り、芯を捉え、刀身を真っ二つに両断するとスカイストリーム粒子が霧散されていく。



「なんと……!!」

『マスター、エネルギー供給回路の不具合かバリアが途切れました」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!」



 そのメテオライトの言葉を受け、カナタはアクセルを踏み込みエレメントドライブソードで赤黒い機体の装甲を斬り裂く。



「見事だ……!!」



 エレメントドライブソードからスカイストリームのエネルギーを放出し、内部機構を破壊する。


 エレメントドライブソードは敵機の装甲が厚い場合、エネルギーを放出して装甲を破壊しきるという特殊機能がある。



「俺の勝ちだ……!!」


続く

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