第7話

取り敢えずパパっと準備し、並んでくださーいと声を張って整列させる。ここまでは大丈夫だ。何せここは超進学校。ここでダラダラしたら時間の無駄だと気づけない者はいない。


「有馬くん?」


案の定玲奈が話しかけてきた。


「体操の声、全部やってくれないかな?」


はい、来ました。そりゃそうですよね。俺だって自分の立場が玲奈だったら間違いなくペアの人に頼むもん。コミュ障だし、自分を怖いキャラとして皆が認識しているし、ペアはチョロいから頼んだらいけそうだし。


はぁ、仕方がないなぁ。


「え?それは無理かな」


俺はそう笑顔で答えた。うん、無理なものは無理!


「ん・・・?ダメ・・・なの?」


玲奈が固まった笑顔で俺の答えを復唱する。


「そう、ダメ。だってこのままじゃ藤野妹のキャラは悪化するだけだぞ。せめて現状維持はしようぜ」


そう言ってさっさと皆の前に出る。うんうん。これは生徒会役員のイメージ向上の為にも仕方がないことだ。本当はそんな面倒くさいことじゃないから代わりに俺がやってあげてもよかったけど、それじゃ玲奈の為にならない。俺はあくまでも玲奈の為に代わってあげないんだ!


「(ちょっと待ってよっ!!)」


慌てて玲奈が走ってきて、俺の服を掴み皆から隠すように小声で話しかけてくる。


「(本当にお願い!!もう無理なの!玲奈、人前で話す準備していないし・・・)」


「(いやいや、準備なんかしなくても普通に1.2.3って言うだけだぞ?)」


どうやら玲奈の方もかなりのコミュ障らしい。ここまでとなるとよく生徒会選挙のスピーチを乗り越えたな。というかよく生徒会役員になろうと考えたな!


「(分かった。それは良いよ!いや、良くないけどね!?あーもう言っちゃうね)」


一息つき、言葉を続ける。


「(玲奈は運動音痴で体操しながらリズム良く数字を言えないの!!)」


・・・へ!?驚いて玲奈の顔を見るとゆでだこのように真っ赤に染まっている。


「(絶ッ対誰にも言わないでね。だけどこれ本当だから。もし信じてくれないなら今から目の前で玲奈の指を玲奈が折るからね!!)」


顔を可愛く赤らめながら血走った目で俺の前に自分の指を置き、折り曲げる素振りをする藤野玲奈。


「(・・・脅してるの?)」


「(脅迫してるの!)」


思わず確認してみると、より酷い答えが返ってきた。


「そろそろ体操始めろよー」


体育教官室からゴリラのような咆哮が聞こえる。


「(お願い!!!)」


体操服を掴み、縋るような目で学校トップの美少女に見上げられる。


「・・・今回だけだぞ?」


ため息をつき、降参のポーズを出す。指を折られたら玲香に殺されかねない。


「うん!!」


とびっきり嬉しそうな顔を見せる玲奈。すごいシャッターチャンスだ。これからはカメラを肌身離さず持つことを検討しなければ。


もう体操を始めなければ流石にヤバそうなので整列している生徒の方を向くと、俺は異様な視線に包まれていることに気付いた。


視線の持ち主はこっちを向いて整列している全生徒。あれ?俺なんかした?


体操を始めてもその視線は収まらない。声をリズム良く出しながらその原因を考える。


Q:いつその視線を感じましたか?

A:藤野玲奈と話終えてから。


Q:藤野玲奈と話す前はその視線を感じましたか?

A:感じませんでした。


と、いうことは藤野玲奈と話したことが原因。あぁなるほど。玲奈が人と話しているのが不可解だったんだな。そういうことにしておこう。

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