第6話

「有馬、死んだな・・・・」


「授業で死者が出たら明日学校休みになるかな」


「なるだろ。葬式の準備もしとかなくちゃな」


「僕・・・・葬式始めてなんだけど・・・・。香典って何円が良いのかな・・・・」


「有馬だから200円で良いんじゃね」


 おい、そこの一組男子達。離れている場所とはいえ聞こえているぞ。香典が必要な事態が発生するのならば、せめて5千円は包んでくれよな。頼むよ・・・・。


 あと五分でチャイムが鳴る。今日は用意する物の多いバトミントンだから、早めに準備したいんだけど・・・・。


 藤野玲奈、本人が見当たらないんだよな。まぁ、まだ体育館に居ないからこそ、皆こうやって話ているのだろうけど。


 ・・・・もう早めに1人で準備しておこう。授業に遅れてあの体育教師に怒られるのは嫌すぎるからな。


 体育教師という存在は例外なく怖い。例外も認めるが、少なくとも俺は出会ったことがない。特に次の授業を担当する種島先生は有馬史上最も怖い。体育の先生には、大抵先生側からしたら受け入れにくいあだ名が付くはずなのだが、種島先生にはバレた時が怖すぎて誰も付けていない。それほどに怖いのだ。怒った時を一度だけ見たことがあるけど、男子高校生が泣いてたもんな。しかも高校三年生。


 ・・・・思い出しただけで恐怖が目の前をウロチョロしてきた。ヤバい、早く準備しよ。


 体育倉庫から出すのはラケットと羽。ネットの準備は授業の途中から始めても良いことになっている。


「えーと、バトミントン、バトミントン、バトミントン・・・・」


 埃っぽくって暗い体育倉庫の中でバトミントンに必要なものを探す。


 ようやくお目当てのものを探しあてた。だが、1人だと2回に分けないと運びきれない量。


「藤野が居たらなぁ~」


「呼んだ?」


 諦めてラケットの山を持ち上げたら、背中がトントンと叩かれた。


 振り向くと、そこにはさっき名前を呼んだ生徒会役員の姿が見える。


「・・・・ナイスタイミング」


「ごめんね、遅れちゃった」


 謝るように俺の目の前に手を合わせて、羽のカゴを持つ藤野。


「よしっ! 行こ~!!」


 元気そうに歩みを進める。


 歩いている間、気まずい無言の空間が出来りそうだったから気になっていたことを聞く。


「なぁ、眼鏡とか掛けたら良いんじゃないか?」


 視力が悪いなら眼鏡を掛ければいいだけの話。何の問題もない。性格は元々玲香よりも良いんだから、直ぐに友達とかも出来そうだ。・・・・玲香に知られたら殺されそうだな。


「嫌だな~。玲奈、眼鏡似合わないから嫌いなんだよね~」


「なるほどね。それならコンタクトにしたら?」


 文明はそんなワガママさんを救うことも出来る。文明って素晴らしいな。


「うーん、怖いから却下!!」


 笑顔で文明を拒否られた。確かに怖いけど! 俺も視力が悪くなったら怖くてコンタクトを付けないと思うけど!!!


「でも、それだったらずっと勘違いされて寂しいままだぞ?」


「いや~、別にいいかなって。元々、玲奈も玲香と同じように人と話すのはそこまで好きじゃないし・・・・」


 なるほど。姉妹でコミュ障だった訳ですか。


「なるほどねぇ~」


 そういうことなら、もうそうなのかもしれない。俺がこれ以上言う筋合いはない。


「というか、玲奈は有馬くんが居るから寂しくない・・・・あ、これは友達としてっていうか生徒会役員としてってことだからね!!!!」


 男子に語弊をもたらす言い方をしたと自覚しているらしい。慌てて顔を真っ赤にして情報を付け足す玲奈。分かっているけど、ちょっとくらい、数瞬くらい夢を見せてもらいたかったなぁ・・・・。いや、本当に分かっているからね!!!




「・・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る