第4話
何度も言おう。藤野姉妹は眉目秀麗、成績良好。透き通るような白い肌に、抜群のスタイル。入学して数ヶ月なのに、既にこの高校のベスト美人として名前が通っている。
その中でも姉の玲香は常に人当たりが良く、妹の玲奈はオーラを纏う孤高の存在と認知されている。
だが・・・・実際には・・・・。
姉の玲香はコミュ障からくる緊張の作り笑いを浮かべているだけで、妹の玲奈はただただ目が悪いから目を細めていただけ。
・・・・ダサい。もう、間違いなく理由がダサい。ダサ過ぎて脳内認識を高貴なお嬢様から、ただのポンコツ娘に置き換えてしまった。
「いやぁ~、怖いね。玲香たちがそんな風に思われているなんて思ってもいなかったよ」
玲奈も全く同感、とも言いたげな表情を浮かべる。
「そうね~。でも、これで2人のことをもっと知れたわね~!」
ニコニコしながら紅茶をすする副会長。この事はそんな簡単に流せるものなのか・・・・?
「そうだな・・・・ッ。まぁ・・・・羽島の言う通りだな・・・・ッ」
あ、やっぱり会長はまともな人なんだ・・・・。副会長の対応スキルの高さに動揺を隠せていない。・・・・ん?
会長が机の下で何やらゴソゴソとしている。何をしているんだ?
コッソリと机の後ろに回り込むと・・・・そこにはダンベルが人の手によって上下運動を繰り返されていた。
「・・・・」
あっ、この人はダメだ。もう手遅れだ。脳細胞なんて砕け散って筋肉繊維の餌になっているに違いない。
もう・・・・普通の人のような生活は送れないんだろうな・・・・。可哀想に・・・・。どこに居ても筋肉という単語だけが思考回路を巡回して、日常生活を阻害しているに違いない・・・・。心の奥底では、筋肉に縛られない暮らしをしたい!という世界最小単位でも表せない僅かな理性が残っているのだろうけど・・・・もう先輩は戻れない。
気がつけば涙を拭っていた。
「おい、有馬。俺の背後に回って何をするつもりだ?もしかして殺す気か!?」
もうっ・・・・そんな芝居をしなくて良いですよ!!
「大丈夫ですよ・・・・先輩」
俺はそっと先輩の肩に手を置いて、先輩を憐れむような眼で見つめる。
「お、おう?」
「先輩は・・・・既に死んでますから・・・・」
真実を先輩に伝える。もう・・・・先輩はダメですから・・・・。
「俺、死んでるの!? どゆこと!?ってイッタァァァァァ!!!!!」
驚いてダンベルを足に落とす先輩。・・・・本当に大丈夫?
「うるさいわね。静かにしなさいよ」
玲香が文句をつける。これまではハイハイと素直に従っていたが、真実を知ってしまった俺は違う。
「コミュ障さんは黙っていてくださーい!!!」
もう言い返せるもんね! ただのポンコツ娘に遠慮する必要はないからね!!
「だ、黙りなさいよ!!! 良いでしょ!? コミュ障でも!!!!」
顔を赤くして必死に言い返すポンコツ娘。はぁ、全く。でも、よくここまで勘違いの連鎖が続いたな。
・・・・良く続いているな。そう、不自然な程に良く続いている。普通ならば、友達とかが・・・・。
・・・・ん?
(友達一切出来ないなぁ・・・・なんては思っていたけど・・・・こういうことだったとは・・・・ハハハ・・・・)
玲奈の言葉が頭をよぎる。
もしかしてこの姉妹・・・・。
「なぁ、藤野姉」
「なに?」
「友達・・・・いる?」
彼女の表情にブラインドが掛かるのを俺は見逃さなかった。
「・・・・」
どこか無表情に感じる笑顔を俺に見せながら、彼女はこう答えた。
「玲奈が居るわ」
「それ・・・・妹だろ・・・・」
「あ、玲奈も玲香は友達だよ!!!!」
玲奈の嬉しそうな声が後ろから聞こえる。
あぁ、知らぬが仏なんて言葉は間違いなく実体験から来ているのだろう。何しろ、俺が今そう思っているから。
この高校のトップ美女達が、コミュ障で目つきが悪くて友達居ないただのポンコツ娘なんて・・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます