コーヒー
空木トウマ
第1話
大学2年の冬、僕は海の近くにある冷たい倉庫の中でアルバイトをしていた。
パレットに積まれたダンボール箱をひたすらラインに流して行くのが僕の仕事だった。
慣れない力仕事で腕と腰がパンパンに膨れ上がっていた。荷物の重さで足がふらふらしてくる。
息を吐くと、白いものが真っ直ぐ上に伸びていく。
「つらいな…」
そう感じていたのは僕だけではなく、一緒に入ったバイト仲間も同じだったようだ。
くだらないおしゃべりをしていた僕らだったが作業が始まった途端に会話は一切なくなった。
真冬の冷凍庫だというのに、汗がしたたり落ちてくる。疲れから皆の作業の手が遅れだし始めた。
「おい!なにやってるんだ!」
そんな僕らを見て、社員さんからの怒声が飛ぶ。
それで僕らは必死になって作業を続けた。
だが、社員さんの怒声は止まらない。
「はやくしろって言ってんだろ!もたもたすんな」
僕らは段々と苛々してきた。
僕らだって必死にやっている。初めての慣れない作業で、身体がついていかないというだけの話なのだ。
「くそっ。あいつむかつくよな」
僕の隣で働いてた男が、吐き捨てるように言った。
次第に現場の空気がぎすぎすしてきた。放り出して逃げたくすらなった。
「休憩にするか」
唐突に言った社員さんの言葉に僕達は救われた。
ラインが止まり、僕達は休憩所へと向った。身体が冷え切っているので、何か温かい物が欲しいところだ。
コーヒーが売られている自動販売機があった。
僕たちはどれにしようかと眺めていると社員さんがつかつかとやってきた。そして財布から千円札を取り出して中にいれたのだ。
「おい、皆好きなの飲め」と社員さんが言った。
僕達はびっくりしてしまった。
「え…いいんですか?」
恐縮しながら僕は聞いた。
「ああ」
表情は険しいままだったが、言い方は先ほどとは比べ物にならないくらい優しい言い方だった。
とまどっていた僕達だったが順番に一本ずつ缶コーヒーを選んで買っていった。
そしてソファーに腰を下ろしてごくごくとコーヒーを飲んだ。
「ふう…」
冷え切っていた身体がじんわりとあったまっていく。
いやあったまったのは身体だけではなかった。
「大変だけど頑張ってくれな」
社員さんが皆にいったのだ。
それまでぎくしゃくしていた現場の雰囲気もその言葉であったかくなった。
(缶コーヒーのおかげかな…)
僕は最後の一滴まで美味しく飲み干すと、また仕事に取り掛かった。
コーヒー 空木トウマ @TOMA_U
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます