The Outer Worlds
第壱話 終わる世界
心地の良い柔らかな感触が、オレの身体中を包み込む。それはまるで雲に身を預けているかのように安らかで、永遠の眠りに誘われてしまいそうな感覚だった。
全身に伝わるこの感覚は想像していた死とは違う……だが、現実離れしているのも確かだった。
ここは天国か? いや、オレみたいなもんが、そんな場所に逝ける訳がない。だが、地獄にしては居心地が良すぎる。じゃあ、一体……
渦巻く疑問に寝ても居られず、オレは閉じていた瞼を開ける。最初に視界に入ったのは真白い天井。そして、顎を引くと自分がベットに寝ている姿が目に入った。
すぐさま身体を起こし、オレは辺りを見回す。白で統一されたワンルーム。ベット以外は何もない。あるとすれば大きめの窓とドアが備え付けてある程度だ。
オレはベットから足を降ろすと、立ち上がって正面の窓へ近寄り、この場所が何処なのか探ろうとする。
「何なんだよ、ここ……」
そこから見た光景にオレは、思わず呆然としてしまった。
先程の現実離れしているという例えは正解だったようだ。何故なら辺りには大量の瓦礫が重力の影響を受けず、宙を舞うかの如く漂う光景が広がっていたからだ。
しかし、宇宙空間と言った感じではなく、周囲には雲のようなものが散見できる為、どちらかと言うと天空と例えた方が正しいか……どちらにせよ不可思議な印象である。
「遂におかしくなっちまったのかねぇ……」
取っ手すらない窓から下を覗き込む。どうやら、この部屋も宙に浮いているらしい。まるで隔離されてるような気分だ。
理解のできぬ状況に立ち竦んでいると、左奥に備え付けられていたドアが急に開く。
「よお、
「アンタは確か……」
そこに居たのはオレに新たな服を譲ってくれた、レゲエファッションがキマッている服屋の店長……マイブラザーだった。
あまりの世界観の合わなさにオレは、何度か目をパチクリさせてしまう。そんな呆然とした姿にブラザーは笑みを浮かべた。
「まあ、何が何だか分かんねえよな? 取りあえず座りなよ。長くなるだろうからさ?」
促されるまま素直にベットへ腰掛けるオレを、ブラザーは見守るような笑みで頷いていた。その後、指をパチンと鳴らし、白い椅子を出現させ、オレの正面に腰掛ける。
「さて、どっから話したもんか……そうだな……何で俺が此処に居るのか気になるだろうし、まずは自己紹介でもさせてもらおうか」
「ああ……頼む」
オレは相槌を打ちつつ、ブラザーの次の言葉を待つ。
「俺は『レガーレ』って組織に所属している者でね。簡単に説明すると、あらゆる次元を安定させ、危険が生じれば『繋ぐ』。それが俺らの使命なんだけど……此処まではいいかい?」
「あ、あぁ……」
こりゃまた突飛出た設定が出てきたもんだ。まあ、別に今に始まったことじゃない。夢でも見てるんだと思って、適当に聞き流しておくか。
「OK。それじゃあ、次は兄ちゃんがどうなったのかを説明しようか」
「説明も何も……オレは……」
「そう。兄ちゃんは過去の自分が許せなくて自分で自分を殺した……自害したってことだな」
数瞬、沈黙の時間が訪れる。
本当に終わっちまったんだな。改めて言われたことで、ようやく自覚ってもんが湧いてきたわ。まあ、悔いはない……オレはテメエのやるべきことをやっただけなんだから。
「で? 感想は?」
「そうだな……地獄にしちゃあ、居心地はいいかな。ちょいと殺風景すぎるが」
そんなオレの自嘲気味な台詞に、ブラザーは
「残念ながら此処は地獄じゃない……天国でもな。此処は全次元最後の砦……
「全次……何だって?」
「
またもや沈黙してしまう……今回は困惑という意味でだが。
「どっから突っ込めばいいんだ、それ……」
「どっからでも突っ込んでくれていいぜ。俺が答えられる範囲内であればな」
両手を広げながら受け入れ態勢抜群なブラザーに、オレは少し気怖じしてしまう。何か想像してた展開と違うな……
「えっと……オレは死んだんだよな?」
「うん。死んだな」
「じゃあ、何で最終防衛ラインなんかに連れてこられてんだ? ロスタイムかなんかか?」
「何でって、そりゃあ……魔帝が世界を滅ぼしちまったからさ」
また沈黙……別にしたくてしてる訳じゃない。トンデモ展開についていけてないだけだ。
「そんな訳で今現在、残ってる次元は此処と、魔帝が潜む異空間しかない。まあ、それも時間の問題だがな」
「ちょ、ちょい待ち……え? 世界、滅びちゃってるの? 何で? っていうか……それがオレの死と、どう関係があるんだ? 訳が分からんぞ……」
ブラザーは肩を竦めると、鼻から溜息を漏らす。
「初めて魔帝とあった時、兄ちゃんは聞いてたはずだぜ。『君は大事な男だ。世界にとっても』ってな。でも兄ちゃんは死んじまった……だから魔帝は機嫌を損ねて、世界を滅ぼしちまったのさ」
「オレが居ないくらいで世界を滅ぼす? ハッ……有り得ねえだろ。冗談キツイわ」
「それが有り得ちゃうんだよ。困ったことにね」
初めてブラザーと会った時の陽気さ……それが微塵も感じられない程の真面目な面持ちだ。どうやら本気で言ってるらしい。本気の者には本気で応える。死んだ後だろうが、それがオレの流儀なら……これ以上適当に聞き流すのはやめにしよう。
「ハァ……仮にアンタの言ったことが本当だとしよう。だが、それほどの力があるなら、死なないように手回しくらいできそうなもんだけどな?」
「いや、そりゃ無理だな。兄ちゃんも知っての通り、魔帝は自分の装備を世界中にばら撒いていてね。その際に己が魔力のほとんどを、装備に分配しちまったのさ……人間として暮らすためにな。だから対応できなかったんだろう」
一瞬オレは納得しかけたが、すぐに違和感に気付く。
「ん? ……力を無くしたのに世界を滅ぼせたってのか? それって矛盾してるような……」
「滅ぼしたのは今の魔帝ではなく、四十年前の魔帝だ。その結果、四十年前から先の次元が全て消し飛ばされてしまったのさ」
「四十年前……何かと聞くワードだな。確か、『解放戦争』があったのもその時か。何か関係してるのか?」
「そこから先は範囲外だ。別の質問にしてくれ」
フン……重要なとこは黙秘ってことかい。この手の対応は何処に行っても変わらんな。一々ツッコんでもられないし、ここは切り替えて行こう。
「それじゃあ……カタリベはどうした? こういう時の為にアイツは居るんじゃないのか?」
「カタリベは激闘の末、一度は魔帝と相討った。だが、魔帝は滅びることを知らないようでね。いつの間にか復活した挙句、この有り様という訳さ」
何だ、そりゃ? 無敵にもほどがあんだろ。カタリベももう居ないみたいだし……これも全部、オレが死んだ所為だっていうのか?
次から次へとくる絶望的な展開に、オレは俯きざまに視線を彷徨わせる。
「さて、質問は大体終わったかな? なら次は、これからどうするかを話そうか」
「どうするもこうするも、世界は滅びたんだろ? もうどうしようもないんじゃ……」
ブラザーは俯いたままのオレの肩に手を置き、穏やかな口調で覗き込むように顔を近づける。
「いや、まだやりようはある。第二の救世主たる……兄ちゃんが居ればな」
その瞳はサングラス越しにでも分かる程に――希望の光を宿らせていた。
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