第46話 ドキッ⁈ 新たな扉、創造作戦!

 ダンとの会話を終えた直後――


 カタリベは帝国に戻る前に野暮用を済ませるべく、グリーズ家の庭園へと移動していた。


「随分派手にやったもんだ……死体だらけじゃないか」


 ダンが単騎で百人以上を相手取った場所……そこに転がる大量の亡骸を避けながらカタリベは中央へと足を運ぶ。


「さて……何故お前が此処まで来たのか聞きたいものだ……なあ? ラスト・ボスよ」


 借金まみれの男がア・プレストの前で振るい、ダンとの呼応により魔帝ラスト・ボスを呼び覚ました後、何処ぞへと消えて行った筈のその大剣が地面には刺さっていた。


「お前のオーラを感じるたびに、私はわざわざ動かなければならないが……こんな短期間で呼び出しを食らうとは思わなかったぞ」


 ラスト・ボス装備の一つであるその大剣は、カタリベの問いかけに微動だにしない……


 剣に向かって思うことではないが、そんなラスト・ボスの態度にカタリベはため息を漏らす。


「答えないか……私が気に食わんから喋らないだけなのか? それともオーラに呼び寄せられて勝手に飛んできたのか? まさかな……いくら似ているからといって装備が独断で認識したとでも? ダン・カーディナレを所有者と……」


 相も変わらず沈黙を貫く大剣……至極当然のことだが、再度ため息を漏らすカタリベ。


「まあ、いい……だがこんなことは二度とせんでほしいものだ。仕事が増えるだけだからな」


 そう言うとカタリベは身の丈ほどあるラスト・ボスの大剣を人差し指で軽くはじくと、その行為とは反するように凄まじい勢いで宙を舞いながらまた何処ぞへと飛ばされていった。


 それをしばらく見つめた後、カタリベはふと……積年の想いを漏らす。


「ダン・カーディナレ……奴なら私を――」





 グリーズ家西棟――


 その最奥には城下にいる民衆から略奪し続けた財宝が、山ほど貯め込まれている金庫があると言う噂……しかし何処ぞのおバカさんのおかげで生体認証の鍵を失ってしまった盗賊団御一行は、ダンの変形能力による『ドキッ⁈ 新たな扉、創造作戦!』に一縷の望みを託していた。


「なあ、ダーシー。聞きたいことがあるんだけどよ」


 そんな大戦犯であるすっとこどっこいのダンは己の名誉を挽回すべく、ふと思い至ったことについて先頭を歩くダーシーに問いかけていた。


「何よ? 聞きたいことって……ぶっ殺すわよ」

「サラッと言うなよ怖いなぁ……まあ、聞きたいことっていうか思い出したことなんだけどよ。お前確か所有者が再起不能になったら、科学宝具が自動的に無力化するって言ってたよな? ってことは生体認証がなくなった金庫の扉なんて、普通に開けられるんじゃねーのか?」


 ダンのセリフの途中辺りでダーシーは既に、ため息と呆れ顔をのダブルコンボな態度を示していた。


「本当にそう思ってるなら、アンタは底抜けのアホだわ。これを見なさい」


 ダーシーが振り返りながら親指で背後を指し示すと、立ち止まった一行の眼前には巨大な扉が設置されており、漆黒色に包まれたこの金庫からは若干の冷気が漂っていた。


「ほぇ~でけー金庫だなー。それになんだかちょっと寒いし」

「当然よ。この金庫の外壁は全て超常合金『トルメンタニウム』でできているんだから」

「トルメンタニウム?」


 ダンが急に出てきた新たなワードに首をかしげていると、自分の役割を思い出したかのようにレイも振り返る。


「この世界に存在する金属結晶のことです。絶大な強度と同化能力があると言われていて、科学宝具にもこの金属が使用されているとか……まあ、詳しいことは一般には知られていないのでわかりませんが」


 ダンは説明している二人の間を通り抜け、半分聞き流しながら金庫の扉に近づいて触れる。


「そう……そのトルメンタニウムによって創られたこの扉は、分厚さおよそ一メーター弱にして重さは五百トンを超えているし、硬度は言わずもがなこの世で一番固いと言われているわ」


 ギギギギギギギギギィィィッッ‼‼‼


「つまり生体認証が無力化された今では、生身の人間なんかでは絶対に開けられない、言わば完全な鉄壁状態なの……恐らくグリーズはもし自分がやられても、絶対他人に渡らせないように、こんな設計にしたんでしょうね」


 ガガガガガガガガガァァァッッ‼‼‼


「見事に奴の性格が反映されている金庫な訳なんだけど――って、さっきからうるさいわよッッ‼」


 先程から鳴り響いていた耳を劈くような音に、ようやくダーシーがツッコミを入れると――


「おっし……! 開いたぞッ……!」


 ――汗をだらだら流しながら息を絶え絶えにしているダンが、やり切った笑みで金庫の扉を自力で開け終えている姿があった。


「「ええええええええっっ⁈」」


 その光景にダーシーとレイは息ピッタリの驚きっぷりを披露し――


「あらあら、凄いわね……」


 ――ガイアは特に驚くこともなく、柔らかな笑みと共に拍手で称えていた。


「ちょっ、え? 何? アンタ自力で開けたのっ⁈」

「うん。頑張ったら何か開いたわ」


 あまりの展開にダーシーは動揺するが、対するダンは軽く答えつつ汗をぬぐった。


「いやいや、ちょっと待ってくださいよ旦那! 変形能力で新たな扉を創るっていう私の作戦は……」

「うん。何かまた能力使えなくなってたからゴリ押したわ」


 ダンの近くにいたこともあってか多少の耐性ができていたレイは、「あぁ……そうですか……」の一言で取りあえずお茶を濁していた。


「何よそれ……さっきの説明要らなかったじゃない……」

「さすが旦那……相変わらず凄まじい身体能力ですね……」

「うふふ……これはヴェンデッタ家の未来も安泰ね」


 という訳で盗賊団御一行による金庫の扉開放編は、三者三様のリアクションと共に速攻で幕を閉じた。


「まっ、まあ、開いたんだったら何だっていいわ! よーし! お宝ちゃんとご対面よー!」


 切り替えの早いダーシーはテンションMAXハートで金庫の中に入っていき、他の三人もその後に続いていくと広間ほどの大きさがある空間に出る。


「おー……こりゃあスゲーな……」


 感嘆の声を漏らすダンがいる場所……その床には山ほど積まれた金塊や紙幣に金貨などの金銭の数々が乱雑に置かれており、ガラス張りのショーケースにはマイクロチップ型の科学宝具や、それを仕込むための首飾りや腕輪に指輪などの装飾品が展示してあるかのように並べられていて、壁一面には改造された刀剣や銃に魔術師が使いそうな杖まで各種取り揃えられていた。


「凄いわダン! これ全部私たちの物よ!」


 余りの嬉しさにダーシーはダンの腕に抱きつき、そのたわわに実った胸部をピットインする。


「ああ……確かに凄いな……」


 鼻の下を伸ばしながら何に対して明言しているのか丸分かりなダン。


「ちょっと……くっつかないで貰えます? 旦那もあんまりデレデレしないでください……」


 それをレイは頬を膨らませながら、幾分か不機嫌そうに間に割って入る。


「何よレイ……嫉妬? まあ、アンタも年頃だし自分の幸せ掴みたいのは分かるけど……」

「そんなんじゃないです! 私が言いたいのはっ……! この財宝は民衆から奪われたものであって……その……」


 そんなレイの発言にダーシーは突然、「アハハハハッ!」と嘲笑った。


「まさか、アンタ……返却するなんて言う気じゃないでしょうね? ハッ……バッカじゃないの⁉ 父親の意思でも継ぎたいんでしょうけど、そんなことしたって無駄よ。相手は破滅の帝王なの……どうせ取り返されるのがオチだわ! それだったら私たちが有効活用してあげた方が、財宝ちゃんたちも幸せに決まってるわ! それにもう八・二で分けるって決めてあるんだから……そうでしょ? ダン」


 そう勝ち誇った態度で問いかけるダーシーに、ダンは「そうだな……」と一言だけ返すと、レイは何か言いたげだったが俯いてしまい、ガイアはその姿を神妙な面持ちで見守る。


「決まりね? それじゃあ財宝を――」

「だがオレたちが貰うのは……」


 そんな嬉し気に動き出そうとするダーシーを遮ると、三人が一斉にダンの方を振り返り見つめてくる。ダンはレイの崇高な想いを汲んでなのか、はたまた自分の下種な想いに忠実なのか……いや、恐らくどちらでもある卑劣な笑みを浮かべる。


「一部だけだ」


騙された男ダン』は『相棒』レイチェルの想いを昇華させるべく、ほんの少し根に持っていたくだらない『復讐』ヴェンデッタを決行する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る