第24話 己が力、解明せし 後編

「使いこなすって、具体的にどうすんだよ?」

「まずは己の能力を知る事……どういった能力なのか? 発動条件は? 持続時間は? まあ、その他色々さ。例えばアタシの能力は――」


 そう言いながら手を前にかざすと、以前にも見た赤黒い魔方陣を展開した。


「いたってシンプル。この魔方陣を通せば相手からの攻撃を弱体化、こちらからの攻撃は強化される……こんな風にねぇ――」


 リリーはカウンターの上に置いてある空の酒瓶を手に取り、放り投げて魔方陣を通過させた瞬間、まさしく疾風迅雷の如く酒瓶が飛んできてオレの顔面んんんっ――⁈


「いっだあああああッ⁈」


 ――にぶち当たり、奥の壁まで吹き飛ばされた。


「イタタタタッ……テメエ、ババアッ! 何しやがる!」

「大丈夫。アンタの頑丈さはアタシが保証する」

「おめえが保証してどうすんだよ⁈ オレの体だぞ⁈ イッテー……ねえ、これ大丈夫? 首が変な方に向いてんだけど……」


 オレは明後日の方向に曲がっている血みどろの頭を、メキメキ言わせながら無理やり元の位置に戻す。


「本当に不死身なんですね、旦那は……普通なら死んでますよ、それ? 変形や生成に修復と再生の力……おまけに身体能力も超人じみている。いったいどれが旦那の力なんですかね?」

「どれって……全部オレの力だろ?」

「転生者は一つしか能力を貰えない筈です。まあ、身体能力は前世のものだとしても、他の説明がつかない。これだと複数能力を得ていることになりますね……」


 そう言いながらレイは顎に手を置きながら考え込んでしまう。


 う~ん……コイツに分からんのならオレに分かる訳もなしに。そもそもなんで取扱説明書の一つもないんだ? 能力をくれたって奴も随分不親切な奴だな、まったく。クレームでも入れたい気分だぜ……


「取りあえず不死身の力は問題なく発動するみたいだねぇ。なら次は変形や生成の方の力を使ってみな。ちょうど出入り口の扉がぶっ壊れてるから、そこに創る感じでね」


 弁償の次は扉を創れだとさ。確かオレの記憶が正しければ扉を壊したのは、こちらの偉そうに踏ん反り返っているババアの筈だが……なんか、いいように使われている気がするな。

 

 そんな愚痴を面と向かって言う勇気もないオレは、リリーに促されるまま壊れている扉の前に行き手をかざす。


「じゃあ、失礼して……えええいいやあああッ‼」


 傍から見たら降霊術でもしているんじゃないかと勘違いされそうな程の雄たけびを発したオレの能力は、相も変わらず発動なんかせず、当然霊なんてのも降りてはこなかった。どうにも意識すると上手くいかない。


「フッ……な?」

「何が、な? なんだい! センスないねぇ、アンタは。『想い』が足りてないんじゃないかい?」

「想い……?」

「転生者の力の源は想いの力……要はメンタルに左右される。つまりアンタは心の底から本気でやってないってことさ」

「おいおい、そんなルールがあるならさっさと言えよな。意地の悪いババアだ」

「言われたところで、どうせアンタじゃ出来ないだろう? そうだねぇ……取りあえずイニーの裸の像でも創ってみたらどうだい? その方がやる気出るだろ?」


 急なリリーの無茶ぶりに「えぇっ⁈ なんで私⁈」と、イニーちゃんが頬を赤らめながら恥ずかし気にリアクションし、その姿がオレのイマジネーションを掻き立てる。


「うおおおおお‼ やる気出てきたあああああッッ‼」


 オレの想いに呼応するように今度は速攻で能力が発動し、見る見るうちにグラマラスな像が創造されていく。


「ふう……完璧だ!」

「相変わらず単純ですね旦那は……あと変態」


 レイの軽蔑的視線など、どこ吹く風……今、オレは自分の才能に打ち震えていた!


「イニー、どうだい?」


 リリーは創られた像を品定めしながら、何回か理解した風に頷きつつ尋ねる。


「どうって……あんまり自分で言いたくないけど、私こんなにスタイル良くないよ?」


 謙遜するイニーちゃんは尚を恥ずかし気……そんな君も素敵サ!


「いやいや、我ながら忠実に再現したつもりだがネ?」

「問題はそこじゃないだろ、おバカ。恐らくダンの力は変形や生成が出来ない……が、ある程度の知識があれば、想像で補えると考えていいかもしれないねぇ。その証拠に……」


 リリーは像のお胸の部分をノックすると、ボロボロと崩れ去って――ああああッ⁉


「何すんじゃあああ⁉ オレの最高傑作だぞッ⁉」

「いや、だからそこじゃないだろうに……もう言わなくても分かるだろう? アンタはイニーの胸を見たことがない。それ故に想像で補って創った結果、胸の部分が脆く崩れ去ったという訳さ」


 リリーの導き出した答えに、先程まで考え込んでいたレイが目を見開く。


「なるほど……確か旦那、監獄でビームを一回放った後、ガントレットがすぐに壊れてましたよね? あれはつまり知識はある程度あったが完璧ではなく、想像で補った部分があるから破棄されてしまった……そういうことなら説明がつきますね」

「へ~、本当にダンちゃんってビーム出せるんだ? 凄~い!」


 イニーちゃんの純粋な眼差しによって、オレの心も見る見るうちに晴れ渡っていく。


「まあね~、男は誰しもビームの一つや二つは出せて当たり前。それを昼用と夜用で使い分けるのさ!」

「へえ~、男の人って凄いね!」


 この子はなんでも受け入れてくれるな……やはり包容力が違う。


「イニーに余計なことを吹き込むんじゃないよ。ったく……ちゃんと真面目に聞いてんのかい? アンタのためにやってんだよ、こっちは?」

「聞いてる、聞いてる。つまり本物のおっぱいを創るためには、イニーちゃんのおっぱいを見て、そして知らなければならない! そういうことだろう?」

「まあ……表現はともかく、そういうことさ。取りあえず今日のところは、この辺でいいだろう。もう日も暮れてきたことだし……」


 外を見るといつの間にか夜になっていた。この宿屋は比較的大通りに面しているためか周りに建物が多く、それらの明かりが灯ることによって暗闇を感じさせなかった為か、今の今まで気付かなかった。


「レイ、今日はもう晩いから泊まっていきな」

「え、いいんですかリリーさん?」

「おお! 泊ってけ、泊ってけ。オレの部屋とかオレの部屋とか、あとオレの部屋とか空いてるから遠慮せず泊ってけ!」


 リリーの提案を後押しするようにオレも同意する。決して邪まな気持ちなどない。


「う~ん、やっぱり帰ろうかな。変態が気持ち悪いし……」

「ちなみに金は、このバカにツケとくから安心しな」


 レイに同調するようにリリーは、蔑む眼でオレの方へと指をさす。


「おい、さらっとオレにツケてんじゃねえよ。よーしレイ君、帰りなさい。今すぐ帰りなさい。GO HOME!」

「フフフ……そういうことなら、お言葉に甘えて泊めさせてもらいますね」

「おい、オレは帰れって言ったんだが⁉ 男の子なら夜道も平気だろうが……ああ⁉」

「ハイハイ、旦那はあっしと一緒にいたいんですもんね? そこまで言うなら泊っていきましょう」

「んだと……⁉」

「なんですか……⁉」


 その後、レイとの口論はしばらく収まらず、取っ組み合いの喧嘩みたいになったが、決して嫌な時間という訳ではなく、何処かお互い楽しげだった。所謂、お泊り会みたいなテンションだったのだろうか……?


 そんな時間は、あっという間に過ぎ……夜は更けていった。





 その夜――


 皆が寝静まった後、レイの寝室に忍び寄る一人の影……


 バレぬよう静かに戸を開け……ひそり……ひそりと歩みを進める……


 そして、明かりの消えた部屋に入った瞬間――特異な光と共に科学宝具が一斉に展開し、無数の刺股がオレを地面に押さえつける。


「くそっ……トラップか……⁉」

「⁈……やっぱり旦那でしたか! 寝室にまで忍び込むなんてっ……!」

「ち、違うぞ⁈ これは盗賊の相棒として恥のないように練習をだな――」

「うっさいわ! 言い訳無用! このド変態!」

「何ィ? ド変態だって?――ハッハッハッ! ようやく正体を現したなレイ! お前の乙女な部分が出てるぞ!」

「誰だってド変態って言うわっ、ボケェッ!」

「おお、上等だ! これが男の道じゃ! オレは自分の道を譲る気はねえええ‼」


 こうしてレイとの……二人っきりの、長い夜が始まった……


 と思いきや速攻でリリーに見つかり、ボコボコにされて物理的に眠ることになったのだった。

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