第21話 畢竟な賞金首
「何で寄りにもよってここなんだ……?」
「ここなら食事もできますし、手配書が置いてあるので賞金首の話がしやすいかと思いましてね。さあ、行きましょうか」
軽快な足取りで進むレイに対し、オレの足取りは幾分か重い。それもそのはず……あの時は能力が発動せず周りの連中に笑われ、挙句の果てに追い出されたわけだからな。どの面下げて行けばいいのか……そんなことを思いつつも、オレは再びSPDの門を潜り抜ける……空腹には勝てん。
中に入ると、相変わらずのネオンの光。前にも思ったが、絶対いかがわしい場所だろここ……元は風俗店だったとかじゃないだろうな?
「おい……アイツだろ……噂の……」
「ああ……前にも来てた奴だよな……?」
「でも、あの時は能力なんて……」
また噂……それに関しては、もうお腹いっぱいだ。
溜息をつきつつ辺りを見回すと、ある女と視線が合う。するとそいつは二人の女を引き連れてずしずしと歩きながら「ちょっとアンタ!」と藪から棒に話しかけてくる。
「よお……誰かと思えば、いつぞやの痴女三姉妹じゃねえか」
「誰が痴女よ! それに三姉妹でもないわ!」
「その節はお世話になりました」
「そうよ! そうよ!」
ブロンドの髪と赤髪、ピンクの髪をした三姉妹――じゃないや。三人組の女と久しぶりの再会だ。魔物と遭遇した時以来か。
「旦那、知り合いですか?」
「ああ。コイツらとは一緒に死線を潜り抜けた仲なんだ」
「いや、潜り抜けてないでしょ⁉ 死んでたんだからアンタ!」
そういやそうだ。相変わらずキレのあるツッコミする。
「そんなことよりアンタ、なんで生きてんのよ⁈ あの時首斬られてたじゃない!」
「あぁ……あいにく、不死身の体を手に入れちまったようでね。ご覧の通り、ピンピンしてるわ……っていうかオレって本当にあのとき死んでたのか? あんまり覚えてないんだけど」
「いや、確実に死んでたわよ! あれだけ血が流れたら即死に決まってるでしょ⁉ ビレッド、ピンキー、アンタたちも見たわよね?」
「いえ……我々はブロンダさんとはぐれた後に気絶してしまいましたから」
「そうよ! そうよ!」
うむ……どうやら大量に血が噴き出してぶっ倒れていたことは記憶通り間違いないらしい。だが起きた時には綺麗さっぱり、血なんてどこにもなかった。頭を撃ち抜かれたときも左腕を斬られたときも血が噴き出していたが、回収されるなんてことはなかったはずだ。何故だ? あの時と今で何が違う? どうにもおかしい……話しが繋がらない気がする。
「何よ、ボーっとしちゃって」
「いや……お前らの名前ってブロンダにビレッドにピンキーっていうんだろ? 単純で覚えやすいなーと思って」
「うるさいわね……そういうアンタは何て名前なのよ? まさか未だに名前がないとか言わないわよね?」
フッ、待ってたぜその言葉を! ようやくオレは自分の名前を堂々と語ることが出来る!
オレはビシッ! っと指をさしながら今までの想いも込めて自信満々に言い放つ。
「よくぞ聞いてくれた! オレの名前はダン・カーディナレ! その小さいおっぱいに刻み込んでおけ!」
「何でおっぱい⁈ 心に刻み込みなさいよ、そういうのは‼――って、ちょっと待って……なんでアンタがカーディナレの名を語ってるのよ?」
「なんでって……そりゃあ、あのババアんとこに住んでるからだよ」
「嘘でしょ……皇帝に目をかけられて、地母神の管理下に入るって……本当にアンタ何者なのよ……?」
あの自信満々な態度が売りだったブロンダがこれだけ狼狽えるということは、オレの置かれている状況は結構凄いんじゃないかと今更ながらに自覚が湧いてくる。
「まあ、オレもこれで転生者としての箔ってもんが付いたってことだろ? なんだったらサインの一つでもしてやろうか?」
「フン……要らないわよ、アホらしい! もう行くわよビレッド、ピンキー!」
ブロンダは二人を引き連れ、またずしずしと歩きつつ去って行った。
「……話も済んだようですし、あっしは手配書を貰ってくるんで、旦那は席に座って食事の注文でもしててください。あ! あんまり無駄遣いしないように。そんなにお金ないですから」
「へ~い」
オレとレイは一旦別れると、それぞれの目的のために動き出す。
フゥ……ようやく飯にありつけそうだ……
◆
「で……なんですかコレ?」
そして戻ってきたレイの初っ端のセリフがこれである。それもそのはず、テーブルの上にはこれでもかという程のラブラブとした食事が並んでいたからだ。
「カップル割だと安いって書いてあったからな。お前が無駄遣いするなと言うからそうしたまでだ。何か問題でも?」
レイは心底嫌そうな顔をしながらも、特に反論することなく黙って座った。
「お前ってアレだよね……顔に出るタイプだよね。そんなに嫌か……」
最早板についてきたと言わんばかりにオレを無視しつつ、テーブルの上に広げられた手配書を何日かぶりの飯をほおばりながらざっと目を通す。
「リリーさんについては、もう聞いてますかね?」
「ああ、確か八十億の値がついてんだっけ?」
「そうです。正確には八十一億と二千万エルです。巷じゃ『地母神』の名で通っています」
地母神……オールド・ローのおっさんがそんなこと言ってたような……随分と大層な異名がついているようだ。
「ん? エル? それって通貨単位か?」
「ええ、先程説明したエル皇女の名前が通貨単位になっているんですよ。この世界で生きていくなら覚えておいてください」
名前が通貨単位って……滅茶苦茶スゲーんだな、あの銅像の皇女様。まあ、皇女なんだから当然か。
「次は『首無し』について説明しますね。かつて解放戦争でリリーさんと組み、帝国に立ち向かった奴で、懸賞金は九十九億と一千万エルです」
「――ブファッ‼ 九十九億ッ⁈ あのババアより高いのかよ⁈」
――驚きのあまり口に含んでいた食い物を一斉砲撃してしまう。
「汚ッ⁉ ちょっと飛ばさないでくださいよ! まったく……ええっと、どこまで話ましったけ? あぁ……そうそう、首無しはその名の通り首がないので、未だに正体が分かってないんです。だから未解決事件は大体コイツの所為になるんで、勝手に懸賞金が上がっていくんですよ」
手配書の写真を見ると言われた通り、首無しの大鎌を持った存在が映っていて、これはまるで――
「なんていうか……地獄の使者って感じだな」
「まあ、見た目はホントそんな感じですよね……強さも折り紙付きと聞きますし。あのリリーさんの全盛期を超えるほどと言われていて、まさしく一騎当千だったらしいですよ」
あのババアも相当強そうに見えるが、それを超えるとは如何ほどのもんか……しかし不気味な奴だ。絶対友達になれないタイプだ。
「続いては『偽皇帝』の
「――ブシャァッ‼ 二百三十億ッ⁈ いきなり上がりすぎだろ⁈」
今度は口に含んだ飲み物を毒霧の如く吹き出してしまう。
「学習能力ッ⁉ 同じこと言わせないでくださいよ!……ホントにもう‼」
レイは近くにあったメニュー表を、盾のように構えて咄嗟に防御する。
「すまんすまん。っていうか口に含んでるときに言ってくるお前も悪いからな。それで、なんで偽皇帝なんだ? 偽物ってことか?」
「そりゃあ、帝国には本物の皇帝がいますからね。だから帝国は偽の名を入れたんですよ」
「ふ~ん……ん? じゃあ、なんで皇帝って呼ばれてんの? 矛盾してね?」
「解放戦争の後、帝国は一時撤退したんですが、その二年後……また軍隊を引き連れてリベルタの国に侵攻してきたんですよ。それを当時、十歳だった皇が一人で退けたことがありましてね」
「えぇ……何そのエピソード……超主人公じゃん」
「それからあの人は最強の門番として、この国を見張り続けているんです。だから、この街の連中はあの人のことを皇帝と呼んでいるという訳です。あの人こそ真の皇帝ってね。まあ、元の世界でも本物の皇帝だったらしいんですがね」
マジで皇帝だったんだなアイツ……道理で偉そうな訳だ。
「次は『破滅の帝王』ことアルバス・ブレイカー。コイツについては前に説明したのでいいですよね?」
「ああ。確か裏社会を牛耳ってる奴だろ? それで、コイツの懸賞金はおいくらなの?」
「懸賞金は二百九十億と五百万エルですね」
「わ~……皇の懸賞金、超えてんだ」
「帝国が今、一番危険視している奴ですからね。現在進行形で懸賞金が上がり続けているんですよ」
インフレに次ぐインフレ……もう流石に驚かなくなってきたな。
「最後の二人は……まとめて紹介した方がいいですかね。まずは『黒騎士』。懸賞金は三百億九千万エルです」
名は体を表すとはよく言ったもので、手配書にはまさしく全身黒の鎧に身を包んだ存在が、黒い刀を携えている姿が映っていた。手配書からでもわかる程の禍々しい雰囲気は、三百億という懸賞金も納得で特段驚くものではなかった。
「そして最後は『狂学者』ディエス・マッドナー……」
ディエス・マッドナー……あの車椅子に乗っている、服のサイズが抜群にあっていなかった、よぼよぼの爺。
まあ、所詮は爺だ。そこまで高くはないだろう……なんて思う程、オレもバカじゃない。この流れだ……高いのは確実。それぐらいは分かるさ。
「懸賞金は――」
さあ来い! これ以上撒き散らさないように、口にはもう何も含んではいない! 準備OK! いつでもどうぞ!
「ありません」
「………………え?」
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