第20話 世界に轟く存在

 外に出ると警報が解除されたこともあってか、町の連中がぞろぞろと戻って来ていて、その人が行きかう道中に今迄何があったのか、その経緯をレイに話すことにした。

 

 能力が発動せず絶賛無職であること、魔物に殺されたこと、不死身になったこと、ア・プレストに身を寄せることになったこと、ヤバそうな連中……主にラスト・ボスに出会ったことなど。 


「………………」


 オレの話を聞いたレイは、えらく素っ頓狂な顔をしていた。


「どうした? 黙りこくって」

「いや……ツッコミどころ満載だなーと思って」


 まあ、そうかもな。自分でも中々ツッコミどころある人生を歩んでる気がする。


「っていうか旦那、結局会員登録できなかったんですね。てっきり特別待遇者になったからア・プレストに出張ってると思ったんですが……」

「あぁ、それでドンピシャでこっち来たのか。残念ながらご期待に沿えず、絶賛無職中さ。悪いね」

「かと思ったら、その癖不死身になってるって……本当なんですか?」

「うん。ほら――」


 オレは先程再生したばかりの左腕を引きちぎると、ビシャァァァッ‼ と鮮血が溢れ出して地面を真っ赤に染める。


「うわっ⁈ ちょっ、大丈夫なんですか⁈」

「イテテテ……大丈夫、大丈夫。なんか治ったばっかだから、左腕がゆるゆるなんだよね……すぐ取れるみたい」


 引きちぎった腕を元の場所にくっつけると、稲妻を迸らせながら修復させていく。気分はどこぞの宇宙海賊だ。


「うわ、気持ち悪っ……何なんですか本当に……」

「気持ち悪いだけは言わないでくれる? 結構痛いんだからね、これ」

「じゃあ、やらなきゃいいじゃないですか。まったく……しかし、今ので余計に注目を浴びてしまったようですね」

「ん? 余計にってなんだよ?」

「外出てから旦那……街の連中から見られてましたよ? 気付いてなかったんですか?」


 レイにそう言われて、ようやくオレは周囲を見渡す。すると視界に映る奴ら全員が、こちらに視線を向けつつ、こそこそと話しているのが見受けられた。腕を取ったりくっつけたりするとういう、如何にも注目を集めそうな行動をした後だから何とも言えんが……異様な光景であることは間違いない。


「ラスト・ボスの噂がもう広まっているようですね。まあ、当然と言えば当然のことですが」

「ふ~ん。まあ注目されるのは嫌いじゃねえから、どうでもいいんだけどよ。そんなことよりさっさと飯屋探そうぜ」

「ええ。でも、ここら辺は被害の対象ですからね。中央街の方に行きましょうか」


 歩き出すレイの後をついていきながら、オレは周りの風景に視線を移す。

 辺りの家屋は斬撃により削り取られ、綺麗に塗装された大通りの地盤は、こじ開けたかのように割れており、まるで災害の後の爪痕が如き惨状と言ったところであった。改めて奴の起こした被害の甚大さが見て取れる。剣一本でこの有り様だ。もし全ての装備が揃ったらと思うと……考えたくもない。

 

 しかし、そんな状況でもこの凄惨な状態を修繕すべく、人々は既に動き出していた。その中には魔法のように手をかざすだけで被害を修復している者が見受けられ、そいつらの腕輪からは以前にも見たことがあるような特異な光を発していた。


「なあ、アレって……」

「あぁ……アレも勿論、科学宝具ですよ」

「え? 科学宝具ってマイクロチップみたいなのじゃなかったっけ?」

「裸の状態で使うのは使い捨てのタイプです。永続タイプの物は、ああやって腕輪や武器に仕込んだりするんですよ。まあ、本来マイクロチップというのは、そうやって組み込む物ですからね」

   

 永続タイプ……そんなのもあるのか。しかし、あれだと見た目は魔法とそん色ないように見えるが……科学って名が付くくらいだ。誰かが創ったってことだよな……?

 

 新たに生まれた疑問について質問するより先に、レイは前を向きながら幾分か感心したようにオレに問いかける。


「しかし旦那は転生者の領分ってやつを、良く分かっているようですね」

「ん? 何のことだよ?」

「旦那の力は見る限り、変形や生成の他に修復の力も備わっているようです。恐らくこの被害もやろうと思えば修復可能でしょう。普通はそんな特別な力があれば行使したくなるものです。でも旦那はやらなかった……しっかり弁えているなぁと思いまして」

「いや、ただ単にそんな余裕なかっただけさ。でもまあ、言いたいことは分かる。オレがここで力を使えば、わざわざ直しに来たアイツらの仕事を奪うことになるからな」

「正にそういうことです。世界は皆で回すもの……特別な者達だけで回すものではありません。だからこそ転生者は他の人たちが出来ないことをする。それがこの世界での役目……使命なんです」


 使命か……まあ、転生者が毎年来るような世界だからな。自己陶酔のために力を使って、いちいち介入なんてしてちゃあ、他の連中がやってらんないだろうしな。つっても、他の奴らが出来ないことをするって、具体的に何をすりゃあいいのか……まあ、ごちゃごちゃ考えんのは趣味じゃねえし。オレはテメエのやるべきことをやるだけさ。


 



 しばらく歩いて中央街に着くと、辺りには人がごった返していて、魔帝の降臨が嘘かのような活気を見せていた。


 随分のんきな連中だ。いや、肝が据わってるというべきか……


 そんな中でレイと共に歩いて行くと、広場の中央には四メートル程の女性の銅像が立っていて、その存在感にオレは思わず目が釘付けになる。普通なら特段気にするようなものではないが、何故かこの銅像からは特別な『想い』を感じ、オレは歩みを止めてしまう。


「ほう……中々、美人な銅像じゃねえか。誰なんだこれ?」

「かつてこの国を治めていたエル皇女ですよ。この世界で唯一、人間で魔法を行使することのできた人です」

「へえ、人間でも魔法って使えたんだな」

「ええ。ですが、それ故に短命だったと聞きます。人間には過ぎた力ってことですかね。まあだからこそ、この世界は存続できたんですが……」

「ん? それってどういう意味だ?」

「おっと、その話はまた今度にしましょう。いっぺんに話しても大変でしょうし……それよりも旦那には他に話しておきたいことがあるんでね」


 随分、気になる引っ張り方しやがる……が、はぐらかされるのはもう慣れっこだ。 

 

 オレは「ふ~ん」と雑に返しつつも、心の中ではレイのことを次回予告担当大臣に任命することにした。もしオレの生き様が映像化するようなことになった際には、その引っ張り方の上手さを考慮し、コイツを推薦してやろう……などとくだらないことを考えていると――


「あれが噂の……」

「ああ、皇帝に目をかけられたっていう……」

「嘘っ⁈ あの人が魔帝を退けたの⁈」

「でも、今年来たばっかだろう……本当なのか?」


 ――ここからでも聞こえてくる噂話に、オレは幾分か辟易する。


「どうやら魔帝よりも旦那の方の噂で持ち切りみたいですね。しかしここまでとは……一躍有名人じゃないですか」

「まあ……心当たりはある」


 皇だ。

 

 アイツが噂を広めたに違いない。『この世界で生きやすくなるよう手配する』だの『俺の発言力は絶大』だの、さも偉そうにぬかしてやがったからな。

 有名になるのは別に構わないし嫌いじゃない。気分もいいしな。しかし、あくまでもその噂が本当ならの話だ。だが、事実は違う。向こうさんが勝手に帰っただけ。そもそもあんな化物に勝つどころか、退けるなんて無理にもほどがある。せいぜいあの化物を止められそうな奴がいるとすれば……あのカタリベという男だけだろうな。


「こうなってくると旦那の存在はこの国――いや、もう世界に轟いている可能性がありますね」

「世界は流石に言いすぎじゃね?」

「そんなことないですよ。魔人連合は勿論のこと……破滅の帝王率いる裏社会や、帝国にも独自の情報網があると聞きます。つまり旦那はもう世界の上位層に足を踏み入れているんですよ」

「上位層……?」

「この世界で喧嘩を売ってはならない連中……『賞金首』ですよ。そして、そいつらについて話すなら……ここしかないでしょう」


 レイの視線が向かう先、それは……

 

「また……ここかよ……」


 未だ名前の略称が分からず、怪しい雰囲気を醸し出している、ほろ苦い思い出が詰まった場所。



 そう、冒険者ギルド……SPDだ。

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