第10話彼女に一歩でも近づくために④
家に帰ると母親や妹が驚いていたが、それらを無視して自分の部屋に向かった。
本日の戦利品を自分の机に置き、
早速とばかりに今日、志田さんに聞いた情報の整理を行う。
「ウニクロやKUは塾の帰り道にあるな。
ドライヤーとヘアアイロンはどうしよう?確か果穂が持っていた気がしたが。」
一人で呟きながら情報を確認していく。
「あの〜。お母さんが夕食だから呼んでる。」
すると突然、妹が部屋の扉を少しだけ開けた状態で、遠慮がちに声をかけてくる。
「うわっ。びっくりした。」
全く妹の存在に気づかなかったので、少したじろぐ。
「わかった。」
そう答えて、妹と一緒にダイニングに向かう。
せっかくだし。今聞いてみるか。
「なあ、果穂。お前ドライヤーとヘアアイロン、持ってる?」
「えっ。まあ一応持ってるけど。」
「借りてもいいか。」
「ドライヤーはいいけど、ヘアアイロンはやめて。」
「あ、ああ〜。わかったドライヤーはありがたく使わせてもらうよ。」
どうしてヘアアイロンはダメなんだ?よくわからんな。
疑問に思いながら、俺は夕食の席についた。
7月30日、木曜日の夕方。
俺はヘアアイロンとまともな服を買いにデパートに来ていた。
デパート内にある家電量販店で目的のヘアアイロンを購入する。
やっぱりヘアアイロンがあった方がカッコよくなれるしな。
そんなことを考えながらデパートを歩き回る。
美容院に行って数日、俺もかなりドライヤーの扱い方に慣れてきた。
しかしドライヤーだけでは髪を綺麗に跳ねさせるには難しいため、
ヘアアイロンを購入することを決めた。
当然購入したヘアアイロンは志田さんの使っていたヘアアイロンだ。
そしてデパート内を少し歩き回り、目的の店ウニクロに到着する。
ウニクロの男性用コーナーを回る。
今回の目的は二着ほどまともな服を買うことだ。
選び方のシミュレーションはできている。
まずズボンは普通のジーンズを買う。
この際、店員さんに声をかけて裾上げもしっかりしてもらう。
そして上半身は明るめの服を買うことだ。
俺は基本的に黒や紺などの暗めの服しか持ってない。
しかし暗めの服は着るだけで自然とマイナスな気分になるらしいので、
明るめの服を着て自分に自信を持てるようにしたかった。
流石に赤や黄色などの服はハードルが高いため、白い服を買う予定だ。
そして志田さんのアドバイス通り可能な限りシンプルな服を探す。
そして店を散策して数分後、俺は悟った。
ああ〜。全くわからん。
何がおしゃれか全くわからなかった。
何が自分に合うのか見当もつかなかった。
とりあえず無難なジーンズ一つ選ぶか。
そこでジーンズコーナーの方にまわる。
そしてここでもまた頭が空回りする。
ジーンズって一種類だけじゃなかったのか?なんだタイト、レギュラーって。
どうしようと少し悩んだが、すぐに頭を切り替える。
とりあえず何か試着してみてから考えよう!
そんな風に考え、無難そうなレギュラーのジーンズと
マネキンが履いていた黒いズボンを手に取り男性店員に声をかける。
「あの〜、こちらのズボンを試着したいのですが。」
「かしこまりました。こちらの方へどうぞ」
そう言って店員は試着室に案内してくれた。
レギュラーはいわゆる普通のジーンズなんだな。
この黒いズボンはきっちりしてるな。
選んだジーンズを試着してみて、理解した。
ジーンズの方は少し裾があっていなかったので、先程の店員を呼ぶ。
「あの〜。裾上げをお願いしたいのですが」
「かしこまりました。採寸しますね。」
そう店員さんが答えて、テキパキと採寸していく。
採寸が終わったのか、安全ピンを止めて店員さんが聞いてくる。
「こんな感じでどうでしょう。」
見てみると今度は裾がしっかりあっていた。
「これでお願いします。」
「かしこまりました。10分ほどでできますので、
それ以降にこちらにいらっしゃってください。」
「わかりました。」
待ち時間を使って他の服を選びにいく。
悩んでも仕方ないし、マネキンの服パクるか……
そう思い、マネキンの服をしっかり観察する。
えっと〜。無地の白いtシャツの上になんかニットみたいなのを着ているのか?
もう一つのマネキンは同じように白い無地のtシャツに普通のシャツをきている。
でも一切ボタン止めてないぞ。これがいいのか?
正直何がおしゃれかいまいち理解できなかった。
とりあえずマネキンの服を理解したところで、
それらの服を探してカゴに入れていく。
なんとか全部の種類の服を見つけ、裾上げしたズボンを取りに行く。
そこで先程の店員さんに声をかけ、裾上げしてもらった黒いズボンを受け取る。
最後に会計をしてデパートを出て、家に向かった。
今日だけでかなりお金を使ってしまった。ていうか最近出費が嵩むな〜
普段お金をほとんど使わない自分からするとかなり重い事態だった。
少しだけ気持ちを落とす。
ただこれで少しでもカッコよくなれるなら。
そう思い、前を向くことにした。
それからまた夏休みが一週間ほど過ぎた。
その間色々な出来事が起きた。
まずメガネからコンタクトに変えた。
やはりメガネからコンタクトに変えるだけで印象はガラッと変わる。
そしてとうとう体にも大きな変化が訪れた。
いつも通り脱衣所で裸になって洗面台の鏡を見てみるとある変化に気づいた。
あれ胸板が少し厚くなった気……後、腹筋も少し割れてないか?
そう、筋肉が目に見える形でつき始めたのである。
服の上からでも胸板の厚みがわかるくらいに胸筋が大きくなったことで自分が少し逞しく見えた。
そして腹筋の方も6つに割れていることがうっすら確認できるくらいに成長しており、
腕は明らかに以前より太くなっていた。
また朝のランニングも欠かさずこなしたことで
かなり体力がついたことを実感していた。
今ではランニングの距離も1キロから3キロまで増えている。
自分が……成長している。
そんな実感がさらに自分を追い込み、また自分を成長させる。
そんな成長サイクルが今の自分には存在していた。
そして夏休みの日々は瞬く間に過ぎていく。
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