第7話彼女に一歩でも近づくために①

7月20日 月曜日

朝の5時半、いつもより早めに時計のアラームが鳴り出した。

すぐに身を起こして、ジャージに着替え外に出る。

まだ6時前にもかかわらず、日が高く登っていた。

しかし思っていたよりも気温は心地いいことに気づく。

スマホを取り出し、持参のワイヤレスイヤホンに繋ぐ。

そしてμtubeを開いて大好きなあの曲をリピート再生にして流す。

「よし。」

そう意気込み俺―日比谷克己ヒビヤカツキは走り始めた。


「はあっ。はあっ。」

家に着く頃、俺は汗だくになっていた。

汗を流すためにすぐに風呂に向かう。

さっぱりした後、タオルでしっかり髪を乾かす。

鏡を見ながら思う。


やっぱり寝癖は治してからいくべきだな。


いつもだったら俺は寝癖を直さず学校に向かう。

身だしなみなんてそこまで気にしていないのだ。

俺は癖毛がひどいため、

一晩たつと髪の毛がなんかの実験で失敗したかのように爆発する。

ただ今朝は風呂に入ったため、かなりマシになっている。


せっかくだ、もう少し整えてからいくか。


そう思い、髪の毛をくしでとかし始めた。



朝食が始まった。しかし少し居心地が悪い。

なぜなら家族の視線が俺に向いていたからだ。

「最近どうしたんだ。克己。」

いつも寡黙な父親が珍しく口を開く。

「別にいつも通りだけど。」

何もなかった風に装う。

「そうか」

父さんもそれ以上は追及してこなかった。

しかし母親と妹は違った。

母親は心配そうに俺を見ており、妹の果穂カホは侮蔑した視線を送っている。

果穂カホは大方

『はあ。何こいつ頑張っちゃってんの。きもっ。』

とでも思っているのだろう。


ああ傷つくな〜。


流石に不快になってきたので、そうそうに朝食を済ませて学校に向かった。



朝早く出過ぎたのか、教室に着いても悠人はまだいなかった。

時間潰しに単語帳を開き、英単語を覚え始める。

それから数分後悠人が登校してきた。

悠人は珍しそうなものを見るような顔で声をかけてくる。

「お前今日どうしたんだよ。髪の毛まあまあおさまってるじゃねーか。」

「朝、汗めっちゃかいてたから、風呂入ったんだよ。」


まあ嘘だけど。


「ふーん」

興味なさそうに悠人が相槌をうつ。

そしていつも通り会話を始めた。



俺は最近自分磨きを始めた。

先週の金曜日、俺はリリのようになるにはどうすればいいかずっと考えていた。

そして得た結論は


『彼女に相応しい人間になる。』だ


とてつもなく抽象的な結論だが、これが正しい答えだと俺は思っている。

その手始めが自分磨きだ。

当然他にもやることはある。

例えば、男らしくなるや内面を成長させるなどだ。

しかしこれらは一朝一夕でできるものではない。

むしろじっくり時間をかけてやっていくものだ。

したがって、俺はそれらを考える前にまず自分磨きをこなすことをきめた。

その一つがランニングや身だしなみを整えることだ。

今はとにかくランニングなどの習慣化を主軸に添えて行動を開始している。

本日7月20日は一学期最後の日である。

つまり、明日からは夏休みだ。

そして俺はその一ヶ月半ほどの夏休みを使って

大きく自分を変える計画を立てていた。

ただこんなことを考えていると知られるのはなんだか恥ずかしいため

他の人に知られないように行動している。

それは悠人だって例外じゃない。

なんだが申し訳ない気持ちを抱えながらも悠人との会話を弾ませた。



学校での集会が終わり、教室で成績表を先生が配り始めた。

羽石悠人ハイシユウト。」

「はーい。」

先生に呼ばれたことで悠人が返事をしながら席を立ち上がる。

日比谷克己ヒビヤカツキ。」

「はい。」

返事をして立ち上がり、成績表を受け取りに行く。

先生が他のクラスメイトに成績表を配っている間、成績を確認する。

成績を配り終わった後、先生が学期末を締め括る話を始めた。

「明日から夏休みが始まるが、二年生だという自覚を持って生活すること。

以上だ。」

そう簡単に締めくくり、HRを手早く終わらせた。

終わってすぐに悠人に声をかけられる。

「克己。成績どうたった?」

「まあまあかな。」

「平均は?」

「8.4くらいかな。目算だから確証ないけど」

「やっぱたけーな。俺は7.6くらいかな。」

「十分いいじゃん。」

「8.4のやつに言われたら、世話ねーよ。」

そう笑いながら悠人が答える。

俺の学校では成績は10段階評価でつけられる。

そのうち全科目の平均が7.5を超えている人間が成績優秀者と呼ばれ、

大学への推薦などの対象となるらしい。

すなわち俺と悠人は両方とも成績優秀者ということになる。


まあ、俺も悠人もさして推薦には興味はないのだが……


そして悠人がある提案をしてきた。

「今日さ、時間あるか?あるなら一緒に放課後俺ん家で勉強しようぜ。」

「別に構わないけど、他に誰か来るのか?」

「いいや。今回は俺らだけ。」

「わかった。」

そう答えて二人で学校を出た。



久しぶりに悠人の家に来たな。


フロントの自動ドアを通りながら思う。

悠人の家は俺の家から少し離れた場所に立つマンションの四階にある。

かなり綺麗なマンションであることから

悠人の家はかなり裕福な家庭であることが伺える。

悠人が鍵を開けて、中に入る。

「お邪魔しまーす。」

小声で言いながら中に入っていく。

「今、家に誰もいないぞ」

悠人にそう突っ込まれてしまう。

「先に言ってくれ」


少し緊張していた俺が馬鹿みたいじゃん。


その後、俺たちは悠人の部屋で勉強を始めた。



「やっと夏休みの宿題終わった〜!」

勉強を始めて三時間ほど経ったころ悠人がそう叫んだ。

「終わったな。」

ため息をつきながら俺も答える。

「今回の夏休みなんか予定あるのか?」

宿題が終わったためか、悠人が雑談をしはじめる。

俺もかなり疲れたため、それに付き合うことにする。

「まあ今年も勉強かな。塾の夏期講習もあるし。」

「やっぱ克己は塾か〜。毎日いくのか?」

「まあ大体は。悠人は行かないのか?」

「俺は講義苦手だから自分でやる予定。遊ぶ予定は?」

「俺にあると思うか?」

自嘲気味に答える。

「だよな。夏休みの最後らへんに花火大会と祭りあるけど一緒に行かないか?」

「まあそこら辺なら大丈夫だろ。具体的な予定が決まったら教えてくれ。」

「わかった。」

少し気になったことがあったので、悠人に質問を投げかける。

「そういえば井崎さんを遊びや勉強会に誘ってないのか?」

「あ、ああ〜もちろん誘ってるぜ。」

歯切れが悪そうに悠人が答える。

「そうなのか。」


じゃあやっぱり井崎さんには振られてないのか。


「そういえば俺の親が帰ってくるからもうそろそろ帰ったほうがいいかもしれない。克己も俺の親と鉢合わせんのは嫌だろ。」

そう悠人が時計を見ながら答えた。

俺も釣られて時計を見ると、時刻は6時を、回りそうだった。

「そうだな。じゃあ今日はもうお暇させていただくよ。」

そう言いながら荷物をまとめて玄関に向かう。

悠人が玄関で見送りながら答える。

「今日はありがとな。」

「こちらこそ。」

そう答えて俺は悠人の家をでた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る