第5話きっかけなんて些細なもの④

そして夜中の九時前。

本日の全ての行程を終わらし、

俺はスマホにイヤホンをつなぎながらベッドでくつろいでいた。

そしてラジオが始まるまでに

俺はアニメ『リトルフラワーズ』について予習していた。

以下の情報がわかった。

『リトルフラワーズ』のジャンルはいわゆるアイドル、学園ものである。

あらすじを簡単にまとめると、

ダンス部に所属する数人の女子高校生たちが

ダンス部の廃部をきっかけにみんなでアイドルを目指す物語だ。

ただ目指す道中に様々な軋轢や問題が生じて

それらをヒロインたちがなんとか力を合わせて乗り越えようとする

ありきたりな青春物語だ。

リリはその中の女子高生の一人『瀬名桔梗』を演じているらしい。


まあこれぐらい知っとけば十分だろ。いつかみてみるか。


そして本日聞く予定のラジオをネット上で開く。

ページを開きながらふと思う。


そういえば俺、今までラジオとかまともに聞いたことないんだよな。


どうして今回はこんなに浮き足立っているんだろう。


そんな風に考えて時間を潰していると、とうとうラジオが始まった。

まずラジオのオープニングテーマが流れる。

次いで彼女の挨拶が始まる。


『どうも〜。みなさんこんにちは〜じゃなかったこんばんは〜。

TVアニメ『リトルフラワーズ』の瀬名桔梗役を演じております

香月梨々香カヅキリリカです。

このラジオはTVアニメ『リトルフラワーズ』についての

最新情報をお届けするとともに

様々なコーナーで皆様を楽しませるラジオです。

このラジオもなんと12回目を迎えました。

嬉しい!

とうとうこのラジオも四ヶ月目に突入しようとしているってことですね。

7月16日木曜日、みなさんはいかがお過ごしでしょうか。

最近はね、夜も暑くなってきたので、

エアコンをつけて私は寝始めたんですけれども

タイマーを予約するのを忘れてしまい、

朝起きたら南極にいるのか!ってくらい部屋が寒かったです。

しかも私はね〜結構寝相が悪い方なのでね、

布団がはだけてしまい本当に風邪ひきそうでした。

これからはね、気をつけていきたいなーと思っています。

それでは『リトルフラワーズ』の公式WEBラジオを

始めていきたいなと思います。』


可愛い。そう可愛い。


自分の持っている言葉ではそれしか相応しい言葉が見つからなかった。

イヤホンを通して響く彼女の声は無意識に俺の頬を緩めていく。


ああー、やべー。可愛い。


多分今の俺は偏差値1ぐらいの思考力しかないだろう。

とにかく感じているのは、彼女が可愛いということだけだ。

そううっとりしていると、いつの間にかラジオは終わりに近づいていた。


『本日のパーソナリティは、瀬名桔梗役の香月梨々香でお送りいたしました。

そしてなんと次回のパーソナリティーは

相川志穂役の一ノ瀬明日香イチノセアスカさんがお送りします。

同時にスペシャルゲストが登場する予定ですので、

ぜひ次回もお聞きください。

本日は香月梨々香がお送りいたしました、ありがとうございました。

また聞いてね〜。』


ああ。終わった。


あっという間に一時間が過ぎてしまった。

そんな風に思いながら、いまだに自分が興奮していることに気づく。

こんなに楽しくなったのは久しぶりだ。

そんな思いを抱きながらベッドに潜り込む。

その日はラジオの影響か長い間寝付くことができなかったが、

昨日の夜更かしの影響かしっかりとした睡眠をとることができた。


朝、俺はアラームが鳴る前に目が覚めていた。

時計を見て時刻を確認すると朝の6時だった。

普段ならまだ目をほとんど開けられないくらい眠い時間帯だが、

今日はなんだか頭がスッキリしている。


いい夢見たからかな。


夢の内容は単純明快だ。

俺とリリが丘の上で優雅にピクニックしてイチャイチャする夢だった。


ああ〜もう少し続きが見たかったな〜。


てか、サンドイッチを頬張るリリめちゃくちゃ可愛くなかったか!?


そんな風に思いながら朝の日課を始めた。


少し早めに学校に行くと、すでに登校していた悠人ユウトに声をかけられた。

「よっ。今日ははえーな。なんかいいことでもあったのか?」

「まあ、ちょっとな。」

「うわ、ちょっと気になるな。何があったんだよ、教えてくれよ。」

「いやなんもないって。」

「絶対なんかあっただろ。言ってみろって。」

笑いながら悠人ユウトが執拗に聞いてくる。


当然、リリとデートする夢を見たから気分がいいなんていえない。


ましてや悠人ユウトになんかいったら、絶対にバカにされる。

うまく話を逸らそうと試みる。

「そういえば、夏休みの宿題、どれくらいこなした?」

「まあ大体って何話逸らそうとしてるんだよ!」


やっぱりだめかー。

仕方ない、別の方法で話を誤魔化すか。


そして手を挙げて、降参のポーズを取りながら答える。

「実は昨日、途中まで読んでた恋愛小説を読み終えたんだよ。

それにめっちゃ感動して朝まで引きずってるんだよ。

俺もこんな恋してーとか思いながらさ。」

「ああ。少女漫画読んだときみたいなやつか。ちょっとわかるわ〜。」


いや、わからん。少女漫画読むとそんな気持ちになるのか。


まあうまく話を誤魔化せたからいいか……


そんなことを思っていると、悠人ユウトが失礼なことを言ってきた。

「てか、驚いたぜ。克己にも人並みに恋愛したいって気持ちがあったんだな。」

「いや俺だって人間だぞ。恋ぐらいしてみたいさ。」

笑いながら答えると、悠人(《ユウト》が急に真剣な口調で言ってきた。

「お前、ここ最近でちょっと変わってきたよな。」

「変わった?全く自覚がないんだが。」

「いやうまくいえねーんだけど前より少し明るくなったていうか

前より楽しく生きてそうっていうかそんな感じだよ。

まあどっちにしろいい方向に変わってるからいいんだけどな。

今までの克己って無気力な感じしたから今のお前の方が俺はいいと思うぜ。」

「そうか。」

突拍子もない話に戸惑う。

「案外、お前もいつか好きな人ができて悶々と過ごす日々が来るのかもな。」

「それは経験談か?」

少しからかいながら答える。

「うるせえ。」

そして悠人ユウトは続ける。

「でもな、克己。自分と釣り合わない高嶺の花を好きになるときついぜ。」

そんなことを寂しそうに答えて悠人ユウトは教室を出て行った。

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