入学編Ⅲ

あれからラムの手作り朝ごはんを食べ僕はちょっと早めに家を出た。

朝の心地よいそよ風にあたりながら歩いていると学ランの中に入っているスマホがいきなり振動を始める。おそらく誰かから電話がきたのだろう。

「はい。どちら様ですか?」

なんて僕は電話が嫌いなのでぶっきらぼうに問うと中年くらいの男性の声が聞こえる。おそらく僕直属の上司で僕が勤めている組織のナンバー2。ハンシェルだろう。

「朝から悪いね。娘の方から伝えた依頼はどうなっているのかな?」

なんて、ハンシェルは柔らかい声で僕に聞いてくる。そう。ハンシェルの娘と言う表現から分かる通りラムはハンシェルの娘なのだ。

「まあ、順調ですね。」

と僕は仕事的には正直まだ何にも進んでいないが殺すか殺さないかの判断は進んでいるのでそう答えておく。

「そうかそうか。ところで前々回みたいに途中で仕事を降りるのは今回はやめてくれよー。もし、やったら君のお姉ちゃんを殺した奴の情報教えないよ。」

と圧強めにハンシェルに脅される。そう、僕は姉を殺した魔術師をこの手で殺すためにこの仕事をしているのだ。

「善処します。」

と答えて僕は電話を着る。

そしてハンシェルと会話していたらいつの間にか学校に着いていたので僕は警備員のおっさんに挨拶しつつ教室へと向かうのだった。

教室に入ろうとドアノブに触れると男性が叫んでいるような声が聞こえる。

「僕が君を守って見せる!僕は君を守れる力がある。だから付き合ってください!」

どうやら誰かが愛の告白をしているようだ。

僕は流石に悪いかなと思い教室から離れようとすると教室のドアが勢い良く開き、その中からシャリーが出ていた。どうやら彼女が告白されていたらしい。

「ルーバントさん!ちょっとすみません」

彼女はそう小さく僕だけに聞こえるくらいの声で呟き、僕に抱きついてくる。

彼女の体は引き締まっているがとても柔らかく、そしてとても良い匂いがした。

「ちょ!シャリーさん!どうしたんですか?」

と僕が彼女に小さく呟くとシャリーは上目遣いをしながら僕に色っぽく呟く。

「私、とある男子生徒からストーカー被害にあっていて...今だけで良いので彼氏のふりしてくれませんか?」

彼女程の美貌の持ち主だったら男にしつこく迫られる事もあるのだろう。彼女がもし、襲われたりして死んでしまった場合、姉の情報を教えて貰えなくなってしまうのは非常に困る。それに何より本能的に彼女を守りたいと思ってしまったので僕は彼女の頭を撫で呟く。

「任せてください!」

僕がそう呟いた瞬間、教室のドアが再度開き中から顔もめちゃくちゃ整っていて体格もめちゃくちゃ良い、いわゆる陽キャ男子が出てくる。こんな女に困っていなさそうな男でもストーカーになるんだなあ。と思いつつ僕は彼を睨みつつ呟く。

「女性につきまとうなんて、悪趣味じゃないですか?」

僕が悪態をつくと彼は笑みを浮かべながら言う。

「彼女は一部の心ない女子からいじめられてるんだ!だがら、学年でも一応人気のある僕と付き合えばいじめはなくなるだろう?それに彼女だって僕の事好きだって言ったんだ!」

彼のその発言に思わず僕の顔が崩れる。

えっ?シャリーこの陽キャに好意を伝えていたの?僕はどういう事だと思い振り返るとシャリーは首を振ってくる。

「わ、私そんな事言ってません!」

「言ったじゃないか!僕がテストで学年5位になった時に!」

彼女は呆れたような顔をして呟く。

「それは、あなたがみんなに好かれてないかもとか言うから私はあなたの努力出来る所は好きですよって言っただけです!」

彼は青ざめたようなどこか絶望したような顔で僕で叫ぶ。

「でも!僕の事好きそうな素振りしていたじゃないか!君の行動は嘘だったのか?」

シャリーは困ったような表情をしてから一変して少し照れたような声で僕の腕に抱きつく。

「だって...そもそも私ルーバントくんが好きなんです!」

おそらく演技しているだけ、なのだろうがあまりにもリアル過ぎてこっちまで照れてしまう。

彼女のこの名演技により、陽キャは何かを悟ったのか深く頭を下げ謝罪する。

「本当にすまなかった。僕が勝手に勘違いをしてしまってシャリーを傷つけるような事になってしまって...」

「いいですよ!」

とシャリーが呟きこの件は解決したのだった。だが、こんなに男女の色恋沙汰とは穏便にそして迅速に解決する物なのだろうか?僕は少し不安に感じつつため息をつくのだった。

それから男は立ち去り。

僕たちは空き教室で雑談をしていた。

「ルーバントくんさっきはありがとうございました!」

と彼女が無邪気に微笑む。

「あれくらい別にいいですよ。」

「いいえ!本当に助かりました!私も良ければルーバントくんの力になりたいんですけど何かやってほしいこととかありませんか?」

なんて、律儀に彼女が聞いてくる。

「なら、魔法が使えないので魔法教えてほしいです。」

と僕が答える。何故殺しのターゲットである彼女に魔法が使えないと言う弱みを見せるのか、理由は二つある。一つ目は彼女の魔法属性や実力を特定すること。二つ目は人間と言うのは愚かな生き物でこちらが弱みをみせると相手も弱みをみせる可能性が上がるので聞いたのだ。まあ、何より学生レベルの魔術師なら絶対に勝てると言う確信からきている言動なのだが。

と僕が言うと彼女は笑みを浮かべて「分かりました!」と言うのだった。


~次回~戦闘シーンきます。



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