第3話 禁忌の代償

彼は禁断の果実に手を出した。自制心を殺した。一度壊されたブレーキは、静止という本来の目的を忘れて、加速を続けた。


そこからの2人は恋人となんら変わらない関係になっていた。街中では普通に隣り合い、手を繋ぎあるいた。周りには自分たちの関係を知る人はいない。どう見ても、恋人同士が手を繋いでデートしている風にしか見えなかった。


彼の記憶の最後は、兄は大学を出て、そのままその街で就職。妹は大学2年生になる頃だった。動揺している妹に相談を持ちかけられた。


「子供ができた。」


これがどういう意味を示しているのか。兄の中で感情がぐちゃぐちゃになった。普通の恋人なら、「結婚しようか。」に、なるところがそうはできない。生まれたとて、両親にどうやって説明する。生まれた子は、とか。兄は言葉が出なかった。


「私、産むから。」


女性は子供ができると変わるというが、彼女の顔は何か覚悟を決めた顔だった。


「わかった。」


彼はそう一言。


兄は両親に報告に行った。もちろん殴られた。母親は泣き、父親は激昂したように自分に覆い被さりながら、容赦無く顔を殴った。自分は抵抗することはなかった。これが、禁忌を犯した代償だと思ったから。


報告しに行った数日後の、仕事の帰り。


顔の腫れは引かない。会社の人にも心配されるほどに腫れていたが、仕方ない。適当な理由をつけて、かわした。


家に帰ると、珍しく電気がついてない。まだ大学に行っているのかと、玄関に手をかけると、鍵が空いている。不用心だなと思いながら扉を開けた。靴は3足。妹と、他に大きいのがひとつ、小さめのがひとつ。不審に思った自分は、靴を乱雑に脱ぎ捨て、リビングに急いだ。そこには、愛した人と、愛してくれた2人が倒れていた。部屋には鉄の匂いが充満していた。状況を察した彼は膝から崩れ落ちた。身体中が急に痙攣しだして、目が回る。呼吸も浅くなり、頭も痛い。彼は言葉にならない地響きのような声で、叫んだ。


ここで、彼の記憶は終わった。憎いことに、この場面で、自分が取り戻したのは目の感覚だった。自然に頬を伝うものがあった。


その後の彼は、3人が運ばれた病院の屋上から飛び降り自殺。何も躊躇なく、自然に飛び込んだらしい。裁判中の彼も、廃人のような様子だった。


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