第8記:洗熊

 眼が覚めた。枕時計は「朝の7時」を示していた。台所に行き、湯沸かし器にミネラル水を注いだ。熱いコーヒーを飲みながら、タスケチェスを指す。最近は、エバンス・ギャンビットを積極的に採用しているわけだが、なかなか勝てない。対局後、画面の右側に刻まれた棋譜を読みながら、実際の盤面にゲームを再現する。勝つにしろ、負けるにしろ、何か原因がある筈だ。それを探る。敗局に得るものが多い。


 1週間分の衣類を担いで、ランドリーに向かったのは「朝の9時」頃。幸いにも、店内はガラガラだった。チャンスだ。大急ぎで仕事を済ませた。

 乾燥機は久しく使っていない。いや、使えないと云うべきか。脱水衣類の運搬(ランドリーからアパートへ)が面倒臭くてたまらない。工程中、最も億劫な作業がこれだ。

 帰宅後、ベランダの物干し台に脱水ものを吊るす。本日は快晴。絶好の「干し日和」である。作業後、風呂に入った。気持ちが好い。上機嫌に乗じて、一杯呑(や)りたくなるが、懸命に我慢する。

 愛機を起動させて、ぴよぶっくを呼び出した。ダサク1頁を投稿。その後、雑用消化のために外出。お気楽自由の一人暮らしではあるけれど、片づけなくてはならないものは、片づけなくてはならない。


♞以上は2月28日の日記の一部。

 

 熱いコーヒーを飲みながら、タスケチェスを指す。対戦相手は「レベル9の美夏」である。キングズ・ギャンビットとか、ルイ・ロペスとか、あれこれとやってみるのだが、なかなか勝てない。どうやら、試し斬りの対象は、美夏ではなく、俺の方らしい。

 対局に夢中になっていると、時の流れを忘れてしまう。気がついた頃には、午前10時を過ぎていた。俺は慌てて支度を始めた。


 1週間分の衣類を担いで、近所のランドリーへ向かった。全ての衣類を洗濯機にぶち込む。その上に、部屋干し用の洗剤(雑菌の増殖を防ぐ効果があるらしい)をばら撒き、扉を閉じて、ロックをかけたら、準備完了。指定額のコインを投入し、スタートボタンを押せば良い。

 俺は洗濯そのものは嫌いではない。と云うか、大好きである。俺の前世の姿は「アライグマだったのではあるまいか…」と感じる瞬間があるほどだ。面倒なのは運搬である。アパートとランドリーの往復が、億劫で億劫で仕方がない。経験者ならわかると思うけど、脱水衣類は凄く重い。


♞以上は3月6日の日記の一部。

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