その6:魔法使いと三冠

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 本作品は、全て架空ですので、実在の人物、場所、団体等と一切の関係がありません。まったくこれっぽっちも関係ないです。気のせいです。


 某ゲームが大流行しているので、その大波に乗るべくして書いたパロディーですので、誤字や不出来な文章には優しい心で見逃して頂けると助かります。


 関係各所からお怒りがあったらすぐに削除する予定なので許しておくんなまし。

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 ジャンクションクラウンカップ※ EXⅠ(AW2,400m) 10着

 聖剣記念 EXⅠ(芝2,500m) 3着

 太閤杯 EXⅡ(芝2,000m) 2着

 天王賞(春)EXⅠ(芝3,200m) 5着

 ※JCCと略称表記することがあります。


 魔法が解けた灰かぶり姫はどうなるのか?


 その答えが、天王賞(秋)後のカタストロフィックブラッドの戦績が物語る。

 脱げた硝子の靴を片手に探してくれる王子様はいない。だって、硝子の靴は、凍狂の坂で砕けたから。ハッピーエンドは訪れない。


 それでも、魔法を掛けてくれた魔法使いはずっと隣にいたのだと知っている。





――天王賞から数週間後、カタコンベ研究所にて


「どうですか? CBは?」

「トレーナー君、悲しい事実と厳しい現実、どちらから聞きたいかね?」


 医療ポッドに入ったカタストロフィックブラッドを背に所長は問い掛ける。いつものふんわりとした雰囲気は霧散しており、残酷な研究者としての顔を覗かせていた。


「悲しい方からでお願いできますか?」

「そうだね。君はそういう人間だったね」


 所長は一瞬、優しい表情を覗かせた。


「君には黙っていたのだが、CBの成長力と耐久力はダービーの時に限界を迎えていたんだよ。それでも走れたのは君の手腕とCBの精神性によるものだろうと推測している。つまり、菊華賞において壊れてもおかしくはなかったのだよ」

「!!」

「君がCBに菊華賞に向けて告げた言葉『今回限りの切り札となる』だったかな? 正直、ドキッとしたね。どこまで見えているのかと思ったよ。予想通り、ボロボロになった。舞日桜冠など奇跡復活といっても良い。それが天王賞を制した? 馬鹿を言え、老害共は距離変更を隠れ蓑にCB殺しをいくつも凍狂に盛り込んだ。君はCBに何をした?」


 所長は、興奮気味に捲し立てる。


「すまない。話を戻そう。結論から言えば、精神も限界を迎えたのだよ。おそらくだが、CBはまともに走れない」

「そ、そうですか……厳しい方は?」

「本当に君は……いや、CBをお願いしたのはこちらだったね。知っての通り無敗の王者が誕生した。老害共はどうしてもCBを潰したい。そこから導き出される結論は?」

「JCCですか?」

「そうだね。招待状が届いているよ、非公式な書類と共にね」


 所長はトレーナーに書類を差し出した。トレーナーは目を見開くしかなかった。そこに記されていたのは、カタストロフィックブラッドに対する不正薬物使用、規定外遺伝子操作違反など数項目に上る罪状と存在抹消の準備があると言う脅迫めいた――事実、冤罪による脅迫なのだが――言葉でJCC(ジャンクションクラウンカップ)に参加せよというモノだった。


「なりふり構っていられなくなったようだね。馬鹿じゃないようでね、CBの足を心配している振りをして『オールウェザーのJCCなら大丈夫でしょ? 聖剣記念はファン投票ですから出走できるかは未定ですし、今年はまだ3レース目でしょ』ときたもんだ」

「CBがファン投票で選ばれない筈がないでしょう」

「その通りだね。当然、選ばれたのに出ないのかと同じ内容で圧力を掛けてくるのが目に見えている。2段構えの作戦という訳さ。それによっぽど無敗の王者に自信があるんだろうね」


 所長はどうしようもないと肩を竦める。

 トレーナーとしては、引退させたいと考えている。そう出来る権利があると思っていた。どんな横槍が入ってもレースだけは純粋なものだと信じていた、信じていたかった。


「引退は?」

「出来ると思うかね?」

「これを表に出せば――」

「どこのメディアが扱うのかね? まあ、出来ない事もないが、壁は奴らではなく法だよ? トレーナー君」


 所長は新造人種生存権利憲章における大原則を伝える。


“新造人種は優秀な成績を残した者に限り、競技人生後も社会の一員としての生を保証する”


 所長は、例え冤罪でも成績を抹消されれば、処分されると言っている。


「それは、向こうの思惑通りに負けてやれと? CBに負けるために走れというんですか!!」


 トレーナーは思わず声を荒げてしまう。所長の考えではない。そうしなければ救われないのだと方向性を示しているに過ぎないと理解はしているが感情が追い付かない。そんな、トレーナーを救ったのは誰でもない彼女だった。


『私、走るよ。無くしたモノも多いけど、貰ったモノはそれ以上に沢山あるから。走るのは好きだから』


 医療ポッドのスピーカーから、カタストロフィックブラッドの声が聞こえた。


「CB!?」

「すまないね、トレーナー君。CBがどうしてもと言ってね。CBには既に全てを話しているのだよ。親としては失格なのだろうね。でも研究者としては、CBの考えを後押ししたくなったのだよ」


 所長は悪魔のような笑みを浮かべながらこう告げた。



「だけど、やられっぱなしというのも性に合わない。JCCではひと工夫しようじゃないか。トレーナー君にも協力してもらうよ。向こうにも相応の代償を払ってもらう。これは決定事項だ」


 この発言通りに、JCCにおいてカタストロフィックブラッドは相手の思惑通りに大敗してしまうが、同時に、相手の持ち駒である完全無欠の極三冠シンギュラリティルーナにも土がついた。








――天王賞(春)から数週間後


 所長はトレーナーと会っていた。


「やあ、久し振りと言うには、少し中途半端な時間かな?」

「いえ、久し振りでいいです。ミコのトレーニングで濃密な時間を過ごしていたので」

「いやはや、あの老害共の嫌がらせを受けて、そう言えるのは本当に君だけだよ」

「ただの慣れですよ。で、悪巧みは終わったんですか?」


 カタストロフィックブラッドは、バトルターフ運営組織の意向で、優秀なDNAを繋ぎ続けるという名目で組まれた管理組合(BTカルテル財団)に所属、管理されることとなりトレーナーは会う事すら許されていないのだった。


「老害なりに頑張って考えていたんだろうけど、自分達が好き放題したいから抜け道だらけなのだよ。それがバレないと思っている時点で無能確定なのだがね、ははは」

「そう言える所長が凄いですよ」

「だろう? だが、それをわざとスルーして別の権利を奪ってきた。来月から施行されるトレーナー助手制度だよ。で、ご挨拶だ」


 所長の背後に控えていた女性がすっと前に出てきて頭を下げた。


「クランベリーです。助手を務めることになります。私の事は出来れば、CBって呼んでくれると嬉しい、です」

「!!」


 トレーナーは絶句するしかなかった。姿形は違うけれど、分かってしまった。何故か、彼女だと断言できる。心が訴えかけているのである。


「サプライズ成功みたいだね。CB、よかったね」

「うん」

「トレーナー君が固まってしまったが、こうするしかなかったとはいえ、よく気が付いたよね? 凄く興味深いよ。トレーナー君の脳を研究対象にしたいくらいだ」

「所長、ダメ」

「いや、そんな怖い目で見ないでくれたまえ。じょ、冗談に決まっているじゃないか」

「所長の冗談は、冗談になっていない時があるよ?」



 そんなやりとりを見てようやく落ち着きを取り戻したトレーナーは説明を求めると所長から驚きの返答が返って来る。


「新しい素体(身体能力低下を代償に延命を施した)を創った上でCBの意識を移しただけだよ」


 所長が言うには、BTカルテル財団のDNA管理方法は、表向き人道的とされているが身体に存在する能力因子を抽出し続ける生きた標本レベルらしい。で、当然、その下準備を行うのは生まれた研究所となる訳で、そこで所長は細工を施したとのこと。


「因子抽出するだけなら、人格とか記憶とか不要だよね? それを研究所が貰ってなにが悪いのかと思う訳さ」


 魔法使いが2人至って構わないでしょ?

 選手とトレーナーだった2人が、新しくトレーナー助手とトレーナーとして歩み始める。


 魔法が解けたなら、また魔法を掛ければいいじゃない。


 





 これにて、カタストロフィックブラッド物語は終わりです。

 

 読んで頂きありがとうございました。

 設定ガバガバの異世界風味のゲームパロディ物語で、読者の皆様の想像力に頼りっぱなしだったと思います。それでも、楽しんで頂けたのなら幸いです。


 

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バトルターフ ~常識を破壊せよ~ 惜帝竜王と夢の盾 @kataotinebiki

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