第3話 帝
帝は大きく笑って
「いや、面白い。まさか私と同じ顔の男子がいようとは、驚いた。して、名はなんと言う?私は 捺、じゃ」
小雪は本名ではなくもちろん偽名で答えます。そのままだと門で話し込んでしまいそうだったので、貞朋は二人を部屋へと通します。
そこでまた話が始まったのですが、帝も小雪も若い割には政治にも文学にも精通しており、二人とも漢文も理解できるほどであったので、さまざまな話題でもりあがりました。 隣で聞いていた貞朋があきれるくらいです。
帝も同じくらいの年齢で、このようにいろいろな話ができるのが楽しいらしく、話題がつきません。小雪がふと九州の独立について話をふると、
「私はしたければすればいいのではないかと思う」と帝は言いました。 今だって、税を集めているくらいでそれほど中央と密接な関係があるわけではない。ならば独立してもらって、貿易で利益を挙げたほうが大和の国としては有利ではないのかと言います。あまりに思い切った内容だったので、貞朋が驚いたくらい。
しかし、と言って帝は続けます。
「ただ、大陸と組んで独立をしようとしている輩がいるというのは気に食わん。それは利用されているだけじゃ。そうやって独立しても今度は大陸の属国に成り下がるだけで、わが国を侵略する拠点程度にしか考えておらんよ」
小雪もそういうものですかねえと言って、すこし賛同します。
そしてあまり夜が更けるのもいけませんので、帝も名残おしそうに帰る事になりました。今度碁で対局しようと約束して。そして帰り際に帝が、
「そちは私のところで働いてみる気はないか?」
とさそってきました。小雪はまだ自分の動きが定まっていないと言うと、帝は都にいる間に自分の所にも遊びにくるように言って、二人は分かれました。貞朋その様子をは面白そうに眺めるのでした。
一方、貴正の屋敷では、黒装束の男に、貴正が何か書状を渡していました。
「これで、九州の方は私が掌握するとしよう」
そう言って行燈の明かりの中、うっすらと笑うのでした。
ある日、貞朋が一通の書状を持って小雪の邸にやってきました。
それは昨日父君から送られてきたものだとか。それを読むと、しばらく都で勉強してこいというような内容でした。
それで、小雪は貴正のところにそれを見せにゆくと、貴正はそのまま今の邸を使っていて良いと言って、ついでに都のことを教えてくれる先生も紹介してくれるとの事でした。そして、いざやってきたのは貞朋でした。
都の帝付きでありながら、大陸へ渡った経験もあり、法律などにも精通してるからだとか。小雪は見知った人物だったので安心して勉強をはじめました。そしてたまに夜になると貞朋の邸で帝と碁を打ったり、最近の情勢について話したりして、より友好を深めていったのでした。
ほかに、平次郎などの家臣を養うために仕事がしたいと小雪が言うと、貞朋は税を管理する仕事を紹介してくれました。そこで、小雪は税の集められ方、使われ方などを学んでゆきました。
平次郎達も馬や弓矢の訓練に向かい、日々武術の練習を行って行きます。後で仲間になった侍たちも腕を磨き、小雪を頭とした武士集団が都では腕を磨き、育て行きました。皆小雪を守るために自分の武術を磨くのです。
たまには小雪の練習相手にもなったりして、山賊をしていた頃よりも充実した日々を送っていました。
そういう日々が過ぎてゆき一年が経ちました。 その間、キツネ達は一度森に帰って、母狐と九州の父君の様子を見てきてくれたりしました。 どちらも変わりなく健康に過ごしているようで、小雪は安心して都の知識を学んでいったのでした。
知識を吸収するスピードは早く貞朋が舌を巻くくらい。
おかげで、帝がたまに意見を聞きに来るくらいです。 もちろんまだ正体は教えていませんので、小雪は帝の事をどこか有力な貴族の一員であろうくらいにか思っていませんでした。別に誰であろうと関係無いと思っていましたので。
狐と人間に育てられたため、世間にある人間が作った身分というものにだいぶ疎いのもあるのですが。
そうこうしているうちに、九州に大陸からの使者が来たとときにで、貴正が向かうことになりました。使者との対話と、大宰府を見に行くためだそうで。
貞朋は胡散臭そうに思いましたが、小雪の父君と書状を交し合っていたので、まだ太宰府では特に動きが出てないことを確認しつつ貴正の動きに気をつけるようにといった内容を送っていました。
それと、平次郎が貴正の邸に以前見かけた大陸の吹き矢を使う黒装束の男が出入りするのを見かけたという内容も沿えて。
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