第2話 都

小雪は男子の旅装束をして、キツネと共に都へと向かいました。

帰りはきちんとした地方豪族の許可証を持ち、関所も問題なく移動していきます。


 行きに比べ、歩きやすい道に道中の食事や宿も確保できて、森の中で生で肉を齧りながら進んでいた頃と比べると雲泥の差です。

 関門海峡では一太と再開しました。一太はすっかり逞しくなっていて、おじいさんの代わりに船を全て任されております。


 
最初一太は小雪が分かりませんでしたが、キツネ達を見て気が付いたのです。そこで、陸路では時間もかかるので、知り合いの船にのせてもらって途中まで行くといいという話しになり、船で瀬戸内海を渡る事に。

 陸と比べると自分で歩く必要がないのでかなり楽です。

ただ、風が強い時などに船が揺れるのは気持ち悪いところ。狐の兄弟たちもそんな時は丸くなって片隅で眠っています。

 
そして松山を過ぎたあたりで、船は中国地方の小さな港へと寄航しました。ここから先は海賊が出るために、しばらくここで護衛を待つそうです。

 
小雪は先を急ぐので、快適な船旅に未練もありますが、礼を言って分かれて陸路を行く事にしました。今回はここでも使える紹介状を持っているので街道を歩いて行きます。

 徒歩に切り替えてから1日過ぎた頃、薄暗い山沿いを歩いていると、突如山賊が現れました。
6人くらいの侍くずれのようです。

ここで、小雪は怖気づくこともなくお金は渡せないと言い、剣を抜きます。

山賊も負けじと剣を抜き、自分たちが人数でも見た目でも勝っていることを確信して襲いかかってきました。

 でも小雪はたいそう強く、しかも陰陽術を太宰府で習っていたため、目眩しの術をかけては手下を全てみね打ちに仕留めてゆきます。そして頭との直接対決。

 頭には陰陽術が通じません。

すでにそれに対抗する術を身につけているようで、目眩し、足元を払うような簡単な術は効かないようにしてあったのです。

 陰陽術に対して認識があり、それに対しての備えもしている。

この頭は只者ではないことを悟り、小雪は頭の素性を知りたくなりました。

 そこで、術を使うふりをして懐に飛び込み、術を使わずに軽い身のこなしでやっつけてしまいます。


 倒された盗賊の頭の手足に狐兄弟が噛み付いて動けなくして。小雪は6人の素性を聞くことに。


頭の名前は平次郎と言い、盗賊たちは前の戦で都に反する勢力として戦い敗れ。

そのまま逃げ延びて盗賊となった元武士の集まりだと。


その話を聞き、小雪は山賊に言いました、私達を護衛して都まで来ないかと。


 山賊の頭はすっかり小雪の懐の深さに感服して、ついてゆくことにしました。
小雪は給金だと路銀を先に手渡し、身なりを整えるように言いました。

 
次の宿場から出る頃には、どこかの御曹司とそのお供といった感じで、元山賊達もまんざらではない様子です。そもそも元は侍だったので、どこかにお世話になりたいという気持は持っていたのです。
小雪に人としての魅力を感じたのか、皆は素直に小雪の言う事を聞いてくれます。そして新しい仲間と共に小雪は都へと歩いて行くのでした。

 道中は他の山賊も出てきたのですが、6人の侍と小雪で全て打ち払い、元侍という彼ら8人も仲間にしてしまいます。

ですがその8人は都へ一緒に行くのではなく都の外に待機してもらい、いざとなったら一緒に行動できるようしておきます。

路銀や給金を私、都やその周辺の情報集めもしてもらうことにして。

頭たちと違い、まだ信用できるかどうか見定める時間がないのもありますが、お金を渡していたら盗賊として働くことはないだろうという考えもあってのことです。


 小雪たちは無事に都へとたどり着き、書状を見せて藤原氏への面会を求めました。するとすぐに面会する事ができまして、皆で屋敷へと向かいます。
 

 そこで、小雪は藤原氏の家長、藤原貴正と面会する事に。そこで自分の持ってきた着物と父君から預かった書状を見せました。

 すると貴正は表情を険しくし、書状を持って考え込んでしまいました。
 

その後、小雪たちは藤原氏の邸宅に厄介になることになりました。旅の疲れもあり、小雪は部屋の中ですぐに寝てしまいます。


部屋の外には平次郎達が番をしていました。貴正はそのような事はしなくても安全だと言うのですが、平次郎は自分はここが落ち着くと言って、部屋の前から離れようとはしませんでした。
 

夜中、小雪が寝ている天井から3人の黒装束の男が降りてきて、襲い掛かります。しかし、部屋の中にはキツネ達がいて、すぐに応戦です。


外から物音を聞いた平次郎が飛び込んできて、小雪も目を覚まして応戦し始めます。黒装束の男三人は陰陽術を使い小雪と平次郎を麻痺させようとしましたが、平次郎の術を無効化する技により効果がありません。不利と感じたのか、すぐに逃走しようとしました。

 平次郎が追いかけると、一人が吹き矢を放ちます。間一髪、平次郎はそれを避ける事ができましたがバランスを崩し転倒。そして物音を聞きつけて貴正や他の護衛の者達も集まってきました。


 貴正は、ただの物取りだろうと言って、護衛をさらに強化するように周りへ伝え去ってゆきました。平次郎はさっきの吹き矢を手にとり、火にかざしてよく見ています。そして小雪に、「さっきの男達はただの物取りではありません。この吹き矢は大陸の国、唐で使われる毒矢です。それに奴らは陰陽術を使いましたが、あれは大陸側の術ですぞ」と囁きます。

 
物取りがそのような術や武器を使うわけがありません。平次郎は、どうやらこの貴正の家は怪しいと思い始めたのでした。


一行は藤原氏の家に厄介になりながら、都にて情報収集を行っていました。平次郎の部下と後で仲間になった侍たちは都の各地に散って酒場や市場などで情報を集めてい行きます。


 
小雪と平次郎、それとキツネの兄弟は毎日共に都を歩き回っていたので、都でもちょっとした話題になり始めていました。キツネをお供にした美男子

「キツネの君」と都の婦人方から呼ばれるようにもなっていました。
これは平次郎の案で、目立っていたほうが襲われ難いだろうと言う事です。それに行方がすぐにわかったほうが藤原氏も安心するだろうと。平次郎は貴正が怪しいと思っているので、付け入る隙を与えたくなかったのです。



 そんなある日、一人の貴族が小雪に声をかけてきました。


「おお、私の良く知っている方にそっくりだったもので」

と言って爽やかに笑います。
これは都でも噂のプレイボーイ、藤原貞朋です。
一応小雪は男として活動していますので、平雅清と偽名を名乗っています。

 貞朋は、九州から出てきた小雪たちから話が聞きたいと、言って、自分の屋敷へと招待しました。そこで貞朋には九州の現状、それと都へ来た理由などを話しました。
貞朋は書状の中身を知りたがりましたが、小雪は知らないと答えます。

そういう重要な書状は、こっそりと一度目を通して覚えておくものだ。と言って貞朋はあきれています。

そこで、貞朋は興味深い話をし始めました。

現在九州地方では独立して国を作ろうとしている動きがあると。貴正もそれに協力している人物だが、最近はどうも動きがおかしい。大陸の使節と良く会っているようだし。そこで、どうやら貴正は九州を独立させる時に、大陸の国からの後ろ盾を得ようとしているようだと。


 はたしてこれは九州で活動している人たちは知っているのか?と言います。
小雪はそういう話は聞いたことがありませんでした。すると、貞朋はそのへんの探りを藤原氏にいれてみたらどうかとアドバイスをします。

 そこで、平次郎が、なぜそれほどの内容を自分達に話したのかと問うと、貞朋は、「私はこのような面白そうな話がだいすきでね。安心しなさい、役人や都の上の方々は私は嫌いなので、君達の事をあえて話したりしないよ」と言いました。


 小雪たちが藤原氏の邸宅に帰る途中、平次郎があの男を信用してよいものかとぶつぶつ言っていましたが、小雪は信用していてもしていなくても、情報を得るのには都合が良い御人だ、と言ってこれからもちょくちょく家を訪れてみようという話しになりました。
 

 二人と4匹が帰ったあと、貞朋は懐から一通の書状を取り出しました。それは小雪の父君から送られてきたもの。それを眺めて、貞朋はふっと笑ってつぶやきます。「やれやれ、私にこのような面倒をおしつけおって」
 


 小雪たちは毎日それぞれが集めた情報を交換して、都の様子をだんだんと理解してゆきました。そして、これからは九州の独立に関する情報も集める事にしました。

 

 藤原貞朋は都の中央にある宮殿へと久々に向かい、そして廊下で摂政の仲原実康と会い話しかけます。


「最近、都で見かけるキツネの君をご存知か?」


「貴正より聞いておる。九州から来た御仁だとか。それがどうかしたのか?」


「一度顔を見られると良い。驚かれると思うぞ」


 そう言って笑いながら奥へと進んでゆきました。実康は苦々しげに、「まったく、帝の一族だからといって、こうも宮殿へ気安く入ってきてもらっては困るな」とその背中に言いました。
 

 

 貞朋は奥の宮に居る帝へと面会を求めます。するとすぐに許可がでて、奥へと通されました。そこにはまだ髪上げを行ったばかりの若い女性が座っていました。

 その両側には中年の男と女が控えています。若い女性は貞朋の姿を見ると嬉しそうに声をかけます。


「貞朋!良く来たな。今日はつまらぬ公務ばかりで退屈していたところだった。ちこう来て話をしておくれ」


貞朋は前に進み出て座ります。


「これは帝、大事なお仕事を退屈だなどと言ってはなりませぬな」


「第一、このような単純な仕事であればこの康智や比奈津でもこなせよう物を」

と言って、帝と呼ばれた少女は左右の男女を見ました。


 そこで、康智と言われた男も、比奈津といわれた女も帝へ少し苦言を言いまして、帝はすねたようになりました。


その様子を楽しそうに眺めてから、貞朋は最近、都に面白い御仁が来ていると小雪たちの事を話しました。すると帝はとても興味をもちまして、ぜひ会ってみたいと言います。貞朋は面白そうにその様子を眺めてから、

「一度会われると帝も驚きますよ」

と言って笑いました。
その時小雪たち一行は、自分達の滞在用に与えられた屋敷でこれからどうしたものかと話し合っていました。目的地について書状を渡したまでは良かったが、それからの指示が何も無いからです。

一応、藤原氏は書状の返事を書くまでは客人としてこの屋敷で過ごしてくれと言ってはもらえるのですが、もう4日もたっています。特にあの黒装束の男達も現れないようなので、とりあえす都の情報を集めて、いつでも動けるようにしておこうというはなしでまとまりました。


その時、戸口に何かが放り込まれる音が。見に行くとそこには一通の書状が入っていました。注意深くそれを開くと、そこには

「戌の刻に参ります。貞朋の屋敷にてお会いしましょう」

というないようが書いてありました。

その日の夜。貞朋邸に小雪たち一行は向かいますと、貞朋はすべて知っているような顔で邸へと案内します。そして、しばらく九州に関する話などをしていると、門から使いがやってきました。


「さて、客人が来ましたよ」

そう言って、貞朋は小雪とともに出迎えに行きます。すると、そこには一台の牛車が止まっていました。貞朋が近づくと、中から勢い良く少女が飛び出してきました。
あの帝です。

だいぶ軽装で、町女のような格好ですので、小雪はまさかそんなに身分の高い人とは思いませんでした。
二人は初めて会って、驚きました。満月の光に浮かんだ顔は、まるで生き写しのようにそっくりだったのです。


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