1章(1) 非接触事故
「・・・梅の祠の神様に呪われちゃえ!」
そんな物騒なことを湊から言われた日の午後の一発目、現代文の授業。
「ZZZ」「つらー、桂―」「ZZZ」「桂!起きろ!」
教師の怒号とともに思わずびっくぅと起きる俺、後ろを振り向けば湊が良いざまだとばかりにと笑っているし、目が合った途端に「いーだ」のような顔をした。あいつ、昼の件根に持ってやがるな・・・
「それじゃあ次のページを成瀬、読んでくれるか?」
「はい」
教師に当てられ当てられた箇所をつらつらと読み上げていくのは成瀬 凛(なるせりん)。黒髪ショトカで名前通りの凛とした振る舞いで様々な男を引き寄せてきたが、1年の頃から振られた男は数知れず、さらに2年になってからは男だけでなく周囲の人を突っぱねるようになり、誰が呼んだか「触れずの令嬢」。今となってはお近づきになろうとする奴すら誰もいない。そんな成瀬が流ちょうに文章を読み上げていく声を聴いていたらそのままその日の授業は終わった。
「桂~、お前今日の授業寝てた罰として廊下と階段の掃除な」
「ちょ、先生それはクラス担任の職権乱用でしょ!!」
「ほう?お前クラス担任の授業で寝た罰がその程度で済んだことをむしろ有り難く 思うべきなんじゃないのか?書きたいか?レポート。」
「ぐ・・・」
そんな担任の横暴(?)により、俺は放課後にめったに人の来ない部活棟の掃除をしていた。すがるような眼でクラスメートを見つめるも皆苦笑いをしながら帰っていったし、湊に至っては目すら合わせようとしなかった。
「うっしゃー!こうなったらピッカピカにやってやるぜ!掃除!」
そんなテンションで俺が掃除をしている時だった。「カツ・・カツ・・・」という音が聞こえてきてふと目を上にやるとそこには先ほどの授業で俺の代わりに当てられた少女、触れずの令嬢、成瀬凛が本を読みながら階段を下りてきていた。ほー、令嬢はこんな時でも読書ですか…って、おい!
「おい、そこまだ拭いてないから濡れてるぞ!!」
と、俺は叫んだがその瞬間彼女の体はぐらっと大きく傾く。その瞬間俺の体は思わず彼女を受け止める方向に動き、文学少女を受け止められる態勢に入り、成瀬凛を受け止められなかった。
「えっ?」
そう、俺は彼女を受け止められなかった。もっと正確に言えば、彼女の体は俺の手を通り抜けて床へときれいに落下していったのだった。
青梅の呪いと不可触少女の願い 文田かまる @fumita_6248
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