石の神様

スコ・トサマ

石の神様 

ある山の中、街道沿いに一つの石像がありました。

それはもともと一人の神が横になって寝ている姿なのですが、長い年月を経て、今はすっかり苔も生え、その姿も四角い石のようになってしまっていました。


でも、毎日その前には、近くの湧き水を入れた器と、お供え物が供えてあります。

近くに住む若い娘が、その石像にお供えをしていたのでした。

雨の日も、風の日も、石像にお供えを欠かさずに。


ある日、娘がいつものようにお供えを持って石像の前にくると、そこには見慣れない男が居ました。

髭と髪の毛を不精に伸ばしており、まるでさっき山から下りてきたかのような姿をしております。見た目が少し恐ろしく感じたので、娘はお供えを持っていく足が一瞬止まりました。

しかし、その男の様子を見て驚きました。石像に腰掛けて、お供え物を食べているのです。


その様子を見た瞬間、娘は大声を上げ、男を突き飛ばしました。男はいきなりの事で面食らっています。


娘は、この石像は神の像で、毎日ここにお供えしているのだと、激しい口調で男に言いました。男は悪びれもせず、

「ハラが減ったんだ。石がモノを食えるわけではなかろう。少しくらいいいではないか。神というのならば、俺がすこしくらいお供えを食っても文句は言いまい」

と言います。

娘はその言葉にも怒り、男を睨みつけてから、あたらいいお供えを置いていました。


男は自分に対する気の強い態度や、器量のよさに惹かれて、この娘をすっかり気に入りまして、そのまま押しかけるように娘の家に居座り、娘の夫になることになりました。


娘は子供を身ごもりましたが、毎日のように神の像にお供えを持っていくことは欠かしませんでした。

男は、山を切り開いては畑を開墾し、山を歩けばそれなりのものを持って帰り、猟にでればそれなりの獲物を持って帰るので、二人で暮らすには何の不自由も無い生活をしておりました。娘も、一人で暮らしていた頃より豊かな生活になってきたのです。

最初の印象からは感じられなかった、この男の細やかな心に気がつきまして。娘はすっかり男との生活に、満たされるものを感じていきます。

ある日、男は娘と石像の元へ行きました。娘は臨月も近いので、男が娘の体を気遣ってお供をしてくれているのです。


男は聞きました


「どうして、このような身重になってまで、この石像にお供えをするのだ?」と。

すると、娘は「神様が良いご縁を運んできたのだから。お礼をしないと。」と言って笑って言いました。


そして、二人の間には娘が産まれ、子供の世話をしている間は、男が石像にお供えを持っていくことになりました。


そして、月日が流れ。遠くの国で行われていた戦が、この国にもやってきたのです。

男達は集められ、兵隊として戦う事になりました。


山で暮らす男も、兵隊として連れて行かれてしまったのです。

残された女と、小さな娘は男の残してくれた畑を耕し、長いこと男の帰りを待っていました。


ある日、女が毎日のように石像にお供えを上げにいくと、そこに男が座っていました。


女はお供えを投げ出し、男へ駆け寄りました。

体中傷だらけ、もうぼろぼろの状態でしたが、男は女を見ると少し笑いました。

女は男を助けようと努力しましたが、男は女と会えた事で満足し、そのまま息を引き取りました。


その日初めて、石像にお供えが置かれませんでした。



それから年月が流れ、ある日の事。

その石像に、若い娘がお供えを持ってきました。

すると、石像に腰掛けて、お供えを食べている若い男がいます。娘はカッとなって怒鳴りました。

「どこに座ってんのよ。父様のとこに!」

男はその声に慌てふためいて、食べていたものを喉に詰まらせながら石像から跳ねるように下りました。

そして、男は供えられていた湧き水を飲んで一息ついて。

「墓だったのか、それは申し訳なかった。」

娘は湧き水の入った入れ物を男からひったくって、

「墓じゃないわ。父様が最初と最期にここに座っていたから。ここは父様の座なの。」

「そうか、それは申し訳ない。何しろ、ハラも減っていたのでな。」

娘はツン、として、

「そう、食べたなら先に行ったら?」

男はこの気の強い、器量の良い娘が妙に気に入りました。そこで、

「どうだい?男手がいるなら俺を連れていかないか?」と声をかけてみたのです。

娘は、じっと男を見ました。

男はニコニコと笑っています。

悪い人では無さそうだ。娘はそう判断し、男を家に連れて行くことにしました。

母親の待つ家へと。

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