第6話 喫茶店のオムライスと桜の妖精?
とりあえず、喫茶店に寄ってみた。
店長自慢のオムライスを注文した。
しばし待つ。その間に屋上の桜の木について考える。
なぜあんなものが屋上にあって、なぜあんなものが俺と智也と恵美の三人しかみえないのか。
考えても答えが見えない。分からない。
桜が見える俺ら三人の唯一の共通点。それは赤宮 竜華との出会いだ。でもそれをなぜか認めたくない自分がいる。
——どうして認めたくないんだろう……。
「お待たせしました。オムライスです」
店員ではなく店長がオムライスを運んできた。俺はかるく会釈した。
「悩んでるね、少年」
「はぁ……まぁそうっす」
突然話しかけられ、俺は少し驚いた。
そして店長は前のソファに腰掛けた。
店長はだいたい四十代ぐらいだろうか。余裕をもった大人の感じがする。風貌も優しそうで、悪い人ではないんだなと見た目だけで安心してしまう。
「今日、ここ初めてでしょ」
「そうっす。なんとなく、ここが気になったもんで」
「そうなんだ……まぁ食べてみてよ。店長自慢のオムライス。美味しいよ」
俺はいただきますと言って、スプーンを持って一口食べる。
オムレツがふわふわ。中のチキンライスもちょうどいい甘さで、美味い。
「美味しいです」
「それはよかった」
にんまりと笑う店長。
「私もね学生時代、恋愛で悩んでいたんだよ」
「そうなんすか」
「これでも学生のときはモテてね。いやーあの頃は楽しかった」
オムライスにばかり意識を向ける。話半分に聞いている。
「そのとき、桜の妖精が私に現れたんだよ。のちにその妖精は時間を越えて私に会いに来てくれた将来の自分の奥さんということを知ったんだ」
興味深い話だな、と思った。正直に言うとあまり信用はしていなかった。でも桜の妖精と聞くとなぜか胸の中が疼くものがある。
「桜の妖精……って?」
「正体はわからないんだが……桜の木に寄生するようなもの……かな。私もはっきりとわからないんだ。一つわかるのは誰かが妖精を使って時間を越えるときに桜の花びらが“生まれる”ということかな」
「桜の花びらが……生まれる?」
「そうなんだよ。気づいたら花びらが肩についていたり、握りしめていたりとか。近くに桜の木がなくても……なんだ」
店長はその光景を思い出しているのだろう。ところどころ言葉が途切れ途切れになっていた。
「……」
「桜の木の花言葉を知っているか?」
「——知らないです」
「“純潔”だよ。穢れをしらない身体の人しか桜の木をつかった時間を越える行動はできないんだ」
「まるで二次元ですね」
アホらしい。いい歳こいたおっさんが何言ってんだよ、とか思ってしまう。
「ちょっと話しすぎたかな……ゆっくり食べていってね」
そう言うと店長は席をたった。
ぼおっとオムライスを見つめる。何かが思い出せそうで思い出せない。そんな歯痒さを覚える。
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