第5話 共通点
「俺の友人もこの桜は見えていなかった。すっかり変人扱いされたよ」
風に靡く枝。俺は木に近づいて表面に触れてみると硬くごわごわしていたので正真正銘、木である。幻覚ではない。
「これが見える奴の共通点をずっと考えていたんだが……お前がこの木を見えているのなら答えは——竜華とかいう女と出会ったのがきっかけだろう」
「……」
坂上は腕を組んで後ろの壁にもたれる。
「それしか考えられないんだよ。俺とお前と恵美。今日の朝に突然現れた桜の大樹が見える三人。見える前と後の変化といえば竜華に出会ったことだろ」
「だからなんだよ」
しょうもない。桜の木が見えるぐらいでなんだ。俺は来年受験なんだ。こんなことにかまけている場合ではない。
「あの女には近づくな。俺の実家が寺なのは知ってるだろ。女は多分悪霊だよ。親父にお祓いしてもらおうぜ」
「勝手にやってろ」
俺はその場を離れようとする。
「お前。後悔するぞ」
振り向いて坂上に殺意の眼差しを向ける。
「たとえ後悔してもいい。死ぬことになってもいい。だが、竜華の悪口だけは絶対に許さない」
階段を急いで降りる。
どうして坂上にあんなことを言ったのだろう竜華の悪口なんてどうでもいいんだけどな。
確かに興味はあるし、恋愛感情だってある。でもまだ会って今日で二日目だ。あまり親しくはない。
俺は不思議と後悔はしなかった。坂上との縁は切れたのかもしれないが気分は清々しい。
跳ねる勢いで階段を降り切った。
「——凛君」
住宅街が連なる一本道で後ろから声がしたので、振り返ると竜華が立っていた。
髪を後ろでにまとめていた。服装は私服で、春らしい襟付きワンピース。腰のベルトをリボンのように結んでいる。可愛らしい。
「どうしたんですか?」
詰め寄る竜華。その距離の近さに思わず一歩引いた。空気がぎこちなくなる。
「あのね。凛君はさ奇跡って信じる?」
「奇跡ですか?」
「うん。桜の木の奇跡……」
「……いや、信じないよ。そんなのあるわけない。奇跡なんか、努力をしない人の偶然の産物に過ぎないよ」
「そう……なんだ」
俺は何とはなしに後ろを見た。とくに理由もなかったのだがなぜか気になった。
もちろん何もない。視線を戻すと竜華はいなくなっていた。
俺の肩に桜の花弁がついていた。それを手に取って捨てる。
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