第2話 放課後

授業が終わり放課後。俺たちは校庭の桜の木の前で集まり、赤宮 竜華が現れるのを待っていた。


「どんな子なんだろうね」


恵美が、竜華と会えることを期待しながら言った。


「とにかくかわいい子だよ」

この言葉は俺だ。少し緊張しながらも、会えることを願っていた。


「というか、なんでここなんだ? 昇降口の前で待っていた方が確実だろ?」と、坂上。


坂上は、木にもたれかかり、腕を組んでいた。その絵は、とても似合っていて、まるでファッション雑誌の表紙のようだった。


「ああ、それは……なんかここにいた方が会える気がしたんだ」


「なんだよそれ」


「なにそれ」


二人の声が重なる。


ほんと、お似合いだな、と思う。早く付き合えばいいのに。


風が吹いた。急に桜吹雪が舞う。三人の視線は一瞬、その舞う花弁に向けられた。


視線を目の間に戻すと、いつのまにか竜華が立っていた。俺たちは驚く。


花弁が地面に落ちる。


「い、いつのまに……」


「気配しなかったよな」


竜華はくすりと微笑んで、俺の名前を呼んだ。


「凛君。これから仲良くしてくださいね」


竜華は、手を差し伸べた。俺はズボンで手の汗を拭いて、握手をした。その感触は、暖かかった。


「それでは……」


すたすたと、歩き去っていく。


呆然とする俺たち三人。


「凄いかわいい子だったわね」


「まるで二次元立だな……凛、お前にあの子は釣り合わねーだろ」


「坂上、本音を言うな」


坂上の頭をピシャりと叩く。



「ただいまー」


「おかえりーです」


家に帰宅すると、妹の凪沙が迎えてくれた。うさぎのパジャマを着て、片手にポッキーを持って。


 凪沙の頭の上にポンと手を置く。そしてわしゃわしゃと髪を散らす。


「ちょっと、お兄ちゃん! なにしてるんですかぁ」

手を離すと、ぷくぅと頬を膨らませて、抗議をする凪沙。その姿が、たまらなくおかしい。大声で笑ってしまった。


「なに、笑ってるんです!?」


「ポッキー、一本もらえるか?」


「あ、どうぞ」


もらったポッキーを齧る。


「って、違う!! 話をはぐらかさないでよ」


リビングに向かう間も、ぶつくさと文句を言われた。それをはいはいと、軽く流す。


ソファに寝転んでいる母は、俺の顔を見ると言った。


「あっ、お帰りなさい。今、ご飯を用意するわね」


母は今年で四十八歳の、シングルマザーである。


俺たちを養うために、昼も夜も、仕事をしている。


そのおかげで、学校にも難なく通えている。ほんと感謝しかない。 


いや、自分でするよ。お母さんは疲れてるだろうし、まだ夜の仕事があるんだから」


「そう? ありがとう」


ささっと、鍋に湯を沸かす。シーフードのカップヌードルに、チェダーチーズと、マヨネーズを入れる。そこに沸いたお湯を注いで、蓋を閉める。これは俺の特製『悪魔のチーズマヨヌードル』だ。


「お兄ちゃん、また偏食?」


俺の行動を見ていた凪沙が、まるで俺が変人かのように言った。


「偏食じゃない。うまいぞ、これ一口食べるか?」


「いらない」


キッパリと言い切って、凪沙は自身の部屋に戻っていった。


「うまいんだがな……」


「お母さんもそれ好きよ」


母はそう言って笑ってくれた。俺も笑った。

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