贈り物 襲来
精霊たちの祝福により、花まみれになったサリアスだったが、それを丁寧に花束にし、花びらは綺麗な瓶に入れて、全てをステラードの屋敷に送った。
サリアスにとって大切なプレゼントだったのもあるが、何よりナイトレイとの自室に花を飾りたいと思ったからだ。まだ片付けは終わっていないけれど、それが済んだらあちこちに置いてもらうつもりだ。
なんでも、精霊によって触れられた花は中々枯れないのだそう。ナイトレイからそれを聞いていなければ、きっと今使用している客間やアルトリス邸のどこかに飾らせてもらっていただろう。
覚醒のことはすぐにロミオとカトレーナにも伝えられた。二人ともとても喜んで、そのお祝いムードが邸中に広まったものだから、夜にはとても豪華な食事が用意された。どれもこれも美しい上に美味しくて、サリアスは目を輝かせて「これがこう美味しい」等を一口食べるごとに話すものだから、最終的にはロミオが料理長を呼んで全ての感想を伝えることとなった。
真っ赤な顔をした料理長を、ある意味羨ましそうに見ていたナイトレイだったが、やはり娘の笑顔には弱い。
その後は四人で精霊についての話をした。
ロミオが覚醒したのは産まれて一年が過ぎた頃だったらしく、訳もわからずに精霊達と遊んでいたらしい。なんとなくその光景を浮かべたサリアスが小さく笑うと、ロミオは少し照れて拗ねた。
カトレーナは契約した精霊の話を聞かせてくれた。
「精霊術士の通う養成学校は、入学前に精霊との契約を済ませるのが一般的なの。私の場合は火の精霊だったわ」
「えっ、今の精霊とじゃなかったんですか!?」
驚いた拍子にサリアスの周辺の精霊がフワフワと飛び始めた。驚かせてしまったらしい。
「そう。あの子じゃちょっと荷が重かったそうで、今の精霊……リュミルを紹介してもらったのよ。精霊術士にもいろんな人がいるからね、こういうことは結構あるわ」
成る程とサリアスが頷く。
精霊術士といっても、やることは勤める場所によって違う。物作りをしたりする非戦闘員の術士はおそらくカトレーナが言うような精霊と相性がいいだろうし、戦闘をする術士はそれなりの強さを持つ精霊と契約した方がいい。
サリアスはナイトレイの精霊との契約を継ぐべく弟子になったので、養成学校に行く時は期間限定で別の精霊と契約をすることになるだろう。
「それにしても、リアって本当に精霊に好かれてるんだなあ」
「覚醒してからは二倍くらいに増えたわよね。リアちゃんの魔力に惹かれている感じだけど……ここまで多いのは中々見ないわ」
サリアスは精霊を見ることができるようになったことで、普段自分がどれだけたくさんの精霊に囲まれていたのかを知った。当然ビックリした。中庭からここまで全員がついてくるとは思っていなかったから。
体を持たない小さな精霊から、かなりの力を持っているであろう精霊まで、とにかくたくさんの精霊達が常にサリアスの周りを飛んでいる。
「一応、控えさせるように言えば少しは減るだろうが……今は覚醒したばかりだから、このままの方がいい。感覚を慣らすことで精霊との繋がりが強くなるからな」
「はい。それに、あまり気にならないんです。こうして話をしている時は静かにしてくれて、歩く時も道をあけてくれます。気配の強さはまだ慣れませんが、精霊達そのものには慣れてきました」
「……なんだか、小さい頃のロミオみたい」
「し、師匠!」
小さく笑ったカトレーナに、ロミオがまた拗ねてしまった。
夜が更け、サリアスは仕事と報告で城に戻るナイトレイと、帰宅するカトレーナを、ロミオと共に見送った後部屋に戻った。
忙しそうな父を心配に思うけれど、その言いつけを守ることは絶対だ。ちゃんと寝ることと、精霊達と触れ合うこと。
精霊語がわからないサリアスには、文字通り精霊に触れることしかコミュニケーションの取りようがないのだけれど、精霊達はそれでいいようだ。
キラキラと輝く精霊はまるで星のように綺麗で、サリアスはこの部屋が満点の空のように見えた。
それを見ているとどんどん眠たくなってきて、ベッドに入るとすぐにウトウトと夢の中に落ちていく。
その時、不思議な歌が聞こえた。
とても懐かしいような、聞いたことのない歌。
何故かそれはサリアスを心から安心させてくれて、微睡の中に優しく溶けていった。
◇◆◇
覚醒をしてから三日目の早朝のことだった。
サリアスはいつも通り目を覚まし、起き上がって軽く目をこすって、ベッドを出ようと部屋の中央を向いて。
そしてとんでもない光景を目にして仰天した。
「なっ、なななっ、なんですかーーー!!?」
「どうしたリア!?」
反射的にナイトレイの声の方へと飛びついたサリアスは、ハッと父の顔を見上げて再び驚愕した。
「お、お父さん!? おかえりなさい! いつ戻られたんですか!?」
「四時間前だが?」
「えっ……今何時ですか!? い、いえ、じゃなくて、これは何ですか!?」
サリアスはナイトレイの膝に乗ったまま、部屋の方を指差して見せる。
そこにはプレゼントの山が五つ程できていた。二度見、三度見と何度も繰り返すもその光景に変わりはない。
そしてその山の間を埋め尽くす、色とりどりの花束の絨毯と言ったら! 足の踏み場がない。精霊達から貰った花より多いかもしれない。
改めてそれを呆然と見つめるサリアスの頭を撫でて、ナイトレイは少々面倒そうな声色で答えてくれた。
「俺が所属する部署の……仕事場の同僚から、お前への贈り物を持って帰ってきた。中々帰れなくてすまなかった、リア」
「い、いえ。精霊達と過ごしていたので、あまり寂しくはありませんでした。でもあの……贈り物、とは」
「城での仕事が終わって、そろそろ領地へ帰ると伝えるついでにお前の話をしたら、二日にわたって散々あれこれ聞かれてな……」
「私のお話をですか?」
「ああ。そしたらあいつら、水臭いだの早く言えだのとにかく騒ぐから、全部話した。リアを養子にしたところから一昨日精霊を見る目と耳が覚醒したところまで。その結果がこれだ」
これって、え、これ?
「お、お祝いしてくださっているんです、か? お父さんの同僚さんは精霊術士なんでしょうか?」
「全員がそうではない。俺が勤めているのは魔物や犯罪者の記録を取り纏め、研究や対策会議をする場所だ。アランのような頭の良さそうなやつがたくさんいる、と言えば想像しやすいだろう」
成る程と、実にわかりやすいナイトレイの説明に頷いた後、ようやく心を落ち着けたサリアスはプレゼントの山を見上げた。
綺麗な紙や箱に、可愛らしいものから豪華なものまでたくさんのリボンがついて、怖気付いてしまいそうな……。
「こんなにたくさんのお祝いをいただくのは、初めてです……お礼をするのが大変そうですね」
実に素直で真面目なサリアスらしい感想に、ナイトレイが小さく微笑む。
その気配にハッとして、サリアスはふわりと髪を揺らしながらそちらを振り向いた。
「でも、いつの間に運んだんですか? 私が寝る時は何にもなかったですし、運んでいる音にも全然気づきませんでした」
「精霊術でまとめて転移したからな。若干光るが音は出ない。リアはよく寝ていたし起こす気もなかったから当然だ。そこまで驚くとは思っていなかったが」
できればちょっとだけでも起こして欲しかったけれど、その優しい心遣いには何も言えない。そうだったんですね、と微笑んで頷いた後、再びサリアスはプレゼントを見上げる。
「と、とにかく、開けてみます。全部は時間がかかりそうですが……お父さん、いいですか?」
「お前に贈られた物だ、好きにしていい」
ナイトレイが促すまま、サリアスは恐る恐る箱の一つを手に取った。たくさんの花束はいつの間にやら妖精達があちこちに持って飛び回っている。道を開けてくれたんだと気づいて、心の中でお礼を告げた。
箱は想像よりもずっしりしている。
破いたりしてしまわないよう、丁寧にリボンを解いて開けてみると、なにやらキラキラとした艶やかな箱が入っていた。
(箱の中に、箱?)
箱の贈り物なんて初めてだと思いつつなんと無しに開けてみると、明らかに高額なペンダントとイヤリングがセットで入っており……それを数十秒後にようやく理解したサリアスは、とうとう本日三度目の大声を上げた。
「わああああっ!? お、お、お父さん!? こ、これは、これはなんなんでしょう!?」
「落ち着け、リア。ただの魔石のアクセサリーだ」
「た、ただではないです! 魔石は高価な物です! それにこんなに立派な物が私への贈り物なんて……きっと間違って入っています!」
半ばパニック状態で大慌てするサリアスは、扉の外の声に気付く余裕がなかった。
それを危険だと判断したらしく、頼もしい友人が扉を思い切りよく開いて飛び込んできた。
「おい! 大丈夫か、リア!?」
咄嗟にサリアスはそちらに目をやったのだが、開かれた扉も、ロミオの姿も、プレゼントの山に遮られ見えなかった。
でもそのかわりに。
「な、なんだこれーーーー!!!?!?」
実に清々しい、本日四度目の叫び声が屋敷に響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます